ゲイリーとの共演はセッションのようだった
- ──椎名さん演じるジョン・レインは東京中の監視カメラに追われる役。実際、こんなにもカメラはあるのでしょうか? もしそうなら、有名人としては暮らしにくいと思いますが。
- 椎名桔平(以下、椎名):(取材カメラに囲まれている状態をさして)まあ、こういう状態ですよね(笑)。監視カメラに関しては、実際に相当数あるみたいですよ。映画で出てきた以上にあると聞いたことがあります。だから有名人でなくても、いろいろなところで監視されている。東京はそういう街なんです。
- ──アクションのキレがすごく良かったと思いますが、今までとの違いを教えて下さい。
- 椎名:アクションにもいろいろな種類があって、今回はクラブマガという中東の軍事訓練で使う護身術がベース。簡単にいうと、肘をよく使うんです。僕はボクシングの経験があるのだけど、ボクシングとは距離感が違う。単純に肘では半分くらいの距離でしょう。すごく接近戦になるので、危ないんですよね。現場でも1度だけ、殴って殴られてというのがありました。
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- ──1人の男性としてジョン・レインのような生き方をどう思いますか? また、彼は命じられれば人を殺しますが、その中にも正義があると思いますか?
- 椎名:たぶん、正義や悪で考えていないんでしょうね。自分の中のルールで動いている。もう少し掘り下げて、なぜ彼は米軍を辞めたのかという役づくりからお話ししましょう。
原作にはベトナム戦争と書いてあるんですけど、年齢設定が合わないので、そこは変えてます。今でいうと、ブッシュ政権でイラク戦争に従軍したことがきっかけだと思ってもらって構わない。あの戦争が正しかったかどうかは、いろいろな意見があると思うけど、たぶんレインは、こんなことのために国に命を預けたのではないと思ったんじゃないかな。それを正義と見るかはわからないけど、彼は自分の信じるものに拠って生きているんだと思う。
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- ──今回の役を演じて、今までと違って新鮮だったことは?
- 椎名:演じる時はいつも、「新鮮な気持ち」でと思っているので、演技自体で今までと違いはないですね。ただ、この映画は、参加すること自体が、とても新鮮でした。
というのも、アメリカ人のバリー・アイスラーが書いた原作を、マックス・マニックスというオーストラリア人が監督し、レンズを覗ているのもオーストラリア人の撮影チーム。言ってみれば、外国人の目を通して描かれた東京なんです。彼らは東京で暮らした経験があったりと、ある程度、東京については知っているものの、当然、僕らほどには知らない。その視点が、まず新鮮でしたね。
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- ──外国人の目を通した東京が新鮮という話ですが、椎名さんにとって東京はどんな街でしょう?
- 椎名:逃げ出したい街だね。仕事がなければ住みたくない(笑)。(出身は三重県で)三重に帰ろうとは思わないけど、そうだな、少し都会で、だけど、人がそんなにゴミゴミしていない街がいいね。
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- ──東京のあちこちの街で撮影が行われたそうですが、一番印象に残っているシーンは?
- 椎名:印象に残っているシーンというより、この作品の最大の特徴は画(え)だと思う。画づくりに関しては、今も触れたように、外国人の目を通した東京が最大のテーマ。ランドマーク的な東京の名勝は一切出て来ないけど、それはきっと、彼らがそういうものにあまり興味がないんでしょうね。それよりも「どこの街なの?」って思わせるような場所に興味を持っているんだと思う。例えば『ブラック・レイン』が大阪の街をニューヨークっぽく撮ったのを覚えてます? 路面に水をまいてスモークを炊いて。そんな大阪ないって思うんだけど、でもカッコイイんだよね。『ロスト・イン・トランスレーション』でも、東京をソフィア・コッポラが撮ると何かが違う。
この映画の話に戻すと、日本映画なんだけど、そういった作品に類似するような画になっていると思う。僕は『ブラック・レイン』のような作品を見て、こういう映画を日本で作れたらいいなってずっと思ってた。今回、この映画からそれを感じとれたので、ぜひ、みなさんにもお届けしたいと思ってます。
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- ──ゲイリー・オールドマンと共演していますが、その感想と、彼の魅力について教えて下さい。
- 椎名:ゲイリーが来ると聞いてから、みんなワクワクしていたね。『レオン』のキレたキャラクターや『JFK』のオズワルド、『シド・アンド・ナンシー』のシド・ヴィシャスに扮しているのを見て、素晴らしい俳優さんだと知っていたからね。
対決シーンを中心に2日間くらい一緒に撮影したけど、初対面の印象は気さくで、ユーモアがあって、いろいろな意味でスマートだってこと。スタジオに入って、カメラを前にしても、特にテンションを上げるわけでもなく、いろいろと考えながら、すごくフラットに何かを見つめている。で、カメラが回り始めると、役にどんどん同化していくんだ。すごくナチュラルに役に入っていくし、役づくりも、ぼやけた輪郭だけを作っていき、その中で、感情に合わせて自由に演じているみたいな。常に動いているんですよ、感情が。
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- ──椎名さんは役に対してどんなアプローチを?
- 椎名:似ているんだと思う、ゲイリーと。だけど、次元が違う(笑)。ゲイリーは、1回目と2回目で演技を変えてきたりする。アドリブを入れたり、きっかけの英語を変えたり。英語のアドリブに対応できなくて、最後のここだけは、(きっかけを)とりにくいから台本通りやってと言うと、「あーそうか、オッケーオッケー」とか言ってさ(笑)。とにかく自由だよね。
監督は「ABCというポイントさえ抑えてくれれば、どう演じようが2人に任せる」って言ってくる。任せられてもねって思うけど、そのときは役のテンションになっているから、「よーし、じゃあ行ってみようか」ってなる。そういうのがセッションっぽいっていうのかな、面白いんですよ。
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- ──英語の演技だと、日本語と違って頭の中で翻訳する必要があって大変だと思いますが、集中できたのでしょうか?
- 椎名:答えから言うとできました。だけど準備が必要。あと、アドリブができない(笑)。セリフって覚えるもので、いくつになっても大変。この年になってもまだ受験勉強をしているような気持ちになる(笑)。
で、最初は記号のように覚えていくんだけど、徐々にセリフの解釈がつき、ニュアンスを想像できるようになってくる。感情をつけることができるというか、本当の意味で、役としてそのセリフが口に出てくるようになっていく。英語でも同じで、翻訳することなく言えるようになる。ただ今回は、ほとんどゲイリーが喋っているからね。続編があれば、もっと話してみようって思っているんだけど(笑)。
それよりも最近、ハリウッドに行く俳優が増えてきたけど、この映画のように日本映画として、日本を舞台にいろいろな国の人とコラボレートできる機会が増えてきたらいいと思う。そうした映画が今後、たくさん登場するきっかけに、この映画がなって欲しいと思いますね。
(撮影:佐藤哲朗)
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- (09/4/21)
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しいな・きっぺい
1964年生まれ。93年『ヌードの夜』で注目を集め、以降、映画、テレビ、舞台、CMと幅広く活躍。代表作に『不夜城』(98)、『化粧師 KEWAISHI』(02)、『魍魎の匣』(07)、『余命』(09)などがある。『金融腐食列島 呪縛』(99)では日本アカデミー賞助演男優賞を受賞。公開待機作に『火天の城』(9月公開)がある。
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『レイン・フォール/雨の牙』
2009年4月25日より丸の内ルーブルほかにて全国公開

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