広瀬すず主演、カズオ・イシグロ原作の映画として話題の『遠い山なみの光』が、現在開催中の第69回ロンドン映画祭Strands部門へ正式出品され、その公式上映で原作者のカズオ・イシグロ、監督を務めた石川慶、キャストの吉田羊、そしてカミラ・アイコらが登壇した。
・人はなぜ嘘をつくのか——母の語る記憶に潜む“あの夏”の真実とは? 広瀬すず主演『遠い山なみの光』本予告編
『遠い山なみの光』は“記憶”についての映画
ロンドン映画祭は、英国映画協会(BFI)が主催するイギリス最大級の映画祭で、1957年に創設。
毎年秋にロンドン各地で開催され、世界各国から選ばれた最新の話題作や独立系作品、ドキュメンタリーなど幅広いジャンルを上映し、新進気鋭の才能から巨匠監督まで多彩な作品が集まり、観客・批評家・業界関係者が一堂に会する国際的な映画イベントだ。

Photographer: Eoin Greally
Courtesy Vue Lumière
とくに吉田羊は松竹梅柄の着物で日本流の祝賀感を出し、帯は映画の中でも印象的な猫の柄を選択。帯留には英国女王をイメージしたクラウンモチーフをあしらうなど、日本とイギリスの架け橋になるようないでたちで、観客からも大きな注目を集めた。

Photographer: Eoin Greally
Courtesy Vue Lumière
本編終了と共に盛大な拍手で迎え入れられた石川慶監督、吉田羊、カミラ・アイコ、そしてカズオ・イシグロによるQ&Aセッションが開催された。
映画化のきっかけを聞かれた石川監督は、日本人にとって「長崎」というのは非常に大きなテーマであること、そしてカズオ・イシグロの原作にあるような「日本の外側であるイギリスからの視点で長崎を語る」という切り口であれば、戦争の実体験のない自分たちの世代でもこのテーマに取り組めると思ったことを説明。
次に、主人公・悦子の娘役を演じたカミラ・アイコが、原作と映画では自身が演じた「ニキ役」が大きく違っていることについて語り、その違いにこそ監督の想いが込められており、ニキの視点は過去の物語を次世代に伝えていくという本作の重要なテーマの大きな役割を担っていると、監督の想いに共鳴した。
MCから「悦子のキャラクターをつかむきっかけになった台詞は?」との質問を受けた吉田は、脚本に一番印象に残った台詞があったのだが、実は本編には使われなかったのだと明かし、場内から笑いが上がる。
台詞に関しても、自身の解釈と監督の解釈の間にニュアンスの違いがあったということで、その違いから「悦子」という人物像を作り上げていったという、役作りの秘話を披露した。

Photographer: Eoin Greally
Courtesy Vue Lumière
カズオ・イシグロは、MCから「石川監督に本作をゆだねた理由は?」と聞かれ、「ヴェネチア映画祭で『ある男』を見たときに、石川監督が信頼できるきちんとした映画人だと確信したので、私は身を引き、全てを彼にゆだねることにした」と、理由を明かす。
加えて映画は石川監督の作品になるべきで、原作者が過剰にかかわったり、監督が原作に忠実であろうと意識しすぎると、たいていの映画はうまくいかなくなる、と持論を展開。
「物語」というのは、人の手に渡り、年月と共に読者がそれぞれの解釈や感情を加え、時代や観客によって姿を変えていくものだと話し、石川監督が話した「次世代へ伝えていくこと」というテーマへとトークは帰結していった。
後半では、客席からも吉田羊や石川監督への質問が寄せられた。
英語での演技について質問を受けた吉田は、「できるだけ英語で話してみます」と、通訳なしの英語で回答。
「日本語のセリフに比べて英語のセリフを覚えるのはとても大変でした。でも、この役を作るうえで一番大切だったのは、彼女が長崎からイギリスに移ってからの30年間の人生を想像することでした」と、流暢な英語で自らの演技や役作りを振り返った。
最後に石川監督が、「今回の作品は“記憶”についての映画だと思っています。実際の長崎をそのまま再現することが目的ではなく、記憶の中の長崎を描いています。戦後の長崎というと、人々はどうしても原爆の爪痕ばかりを想像しますが、実際には、すでに人々は前に進み始めていて、ファッションを楽しんだり、日常の喜びを取り戻していた。私たちは、そうした姿を描きたかった。そして、それは1950年代の日本映画ではほとんど描かれなかった部分でもあります。だからこそ、それがこの作品づくりの大きなコンセプトのひとつになりました」と、上映後のトークイベントを締めくくり、会場からは改めて大きな拍手が沸き起こった。

Photographer: Eoin Greally
Courtesy Vue Lumière
『遠い山なみの光』は現在公開中。
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