アートに造詣が深いデザイナー トム・フォードが監督

『シングルマン』は2009年公開のアメリカ映画で、監督はグッチやイヴ・サンローランも手がけたファッションデザイナーとして知られるトム・フォード。彼は『007/慰めの報酬』以降のジェームズ・ボンドのスーツを担当するほか、顧問先のブランドイメージ全般を司るクリエイティブディレクターという職業のはしりとしても有名だ。

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本作の舞台は1962年のアメリカ・ロサンゼルス。恋人ジムを交通事故で突然失った大学教授ジョージの物語だ。

傑作建築「ガラス・ハウス」でロケ

ロケに使われた建物は、フランク・ロイド・ライトの弟子であるジョン・ロートナーの家「ガラス・ハウス」。モダニズム建築の傑作の一つだ。冒頭から登場し、平屋部分の屋根を越える大きな出窓が、室内と屋外を分け隔てることなく緩やかに繋ぎ、壁がない透明な空間を感じられる。恋人ふたりの関係と同じ、世間からは見えない、ピュアで透明な存在を象徴している。

室内にいながら屋外を感じられる建物といえば、師匠のフランク・ロイド・ライトが建てた落水荘が思い浮かぶ。このような環境に溶け込んだ建物は、それ自体が一級品なので、撮影するだけで絵になる。フランク・ロイド・ライトのインテリアは、日本でも帝国ホテルや自由学園明日館などで見られるが、このガラス・ハウスほど開放的なものは高温多湿の日本では難しいかも知れない。

トム・フォードのスタイリッシュなセンスとジョン・ロートナーのセンスには共通点があることに気づかされる。