前編/日本のライトノベルをハリウッド超大作に映画化した真相に迫る!

#映画作りの舞台裏

アーウィン・ストフ
アーウィン・ストフ
アーウィン・ストフ
『オール・ユー・ニード・イズ・キル』
(C) 2013 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BMI)LIMITED

『オール・ユー・ニード・イズ・キル』
アメリカではまったく無名だった小説を映画化した理由

日本人小説家・桜坂洋による原作を実写映画化した『オール・ユー・ニード・イズ・キル』。「日本のライトノベルが、なんとトム・クルーズ主演でハリウッド映画化された!!」と興奮と驚きを抱いた人も多いであろう。日本人として嬉しく興味深い本作について、キャンペーンのため来日した製作者アーウィン・ストフ氏に話を聞くことができた。

まずは、素朴な疑問──原作「All You Need Is Kill」はハリウッドの映画業界人の間で話題になるほど有名な作品だったのだろうか?

答えはやはり予想通り、まったく無名だったそうだ。ストフ氏は、アメリカで英語翻訳版が出版されたあとに映画化権を獲得したわけが、争奪戦とはならずにスムーズにことは運んだようだ。

では、いったいどうしてストフ氏は原作と出会ったのだろう? それは、「All You Need Is Kill」のアメリカでの出版元であるビズ・メディアのジェイソン・ホフス氏がストフ氏と古くからの知り合いであり、ホフス氏が英語版の「All You Need Is Kill」をストフ氏のもとに送ったのだ。ストフ氏は50ページほど読み進んだだけで「これは映画化しなきゃいけない!」と確信したのだとか。

それほどまでにストフ氏が強く惹かれたのは物語そのものが持つパワーだ。決して勇敢とは言えない主人公が生と死がかかった時間のループにとらわれてしまい、エイリアンと戦いながら何度も何度も死んでは目覚めるという状況を繰り返さなければならない。その仕掛けが非常に魅力的だとストフ氏は言う。

タイムループものは『涼宮ハルヒ』シリーズなどライトノベルに多いが、日本のほかの作品もストフ氏は多く読んだのかというとそんなことはないらしい。とくにループものの作品を探していたわけではないので、読み比べたりはしなかったそうだ。

本作はループの仕掛けも魅力的だが、戦闘に用いる機動スーツに着目している原作ファンは多く、起動スーツを含めロボットものは日本のアニメや漫画でも人気が高い。本作の機動スーツがどのように描かれるか気を揉んだファンも少なくないようだが、CGではなくリアルな機動スーツが何十着も製作されて撮影が行われた。原作者である桜坂洋氏も機動スーツを装着する機会があったようだが、動くだけで並大抵のことではなかったらしい。それでもリアルな機動スーツにしたのはこだわりがあったからだろうか。

ストフ氏は「監督のダグ・リーマンはとにかく本物でやりたがる監督なんだ」という。製作に入る前のミーティングで、できる限りCG処理はしたくないというダグ・リーマン監督からの申し出があり、その強さにかえってストフ氏は「でも、エイリアンは実際には存在しないから、ある程度のCG処理はやむを得ないよ」と言ったほどだとか。

しかし、機動スーツは実際に作って正解だったとストフ氏は感じている。トム・クルーズら俳優が実際に装着することによって動きも演技も変わってくる。そのために、地に足のついたリアルな世界観を作り出すことができたというわけだ。機動スーツにおいては原作のファンも満足度が高いのではないだろうか。

では、主人公についてはどうだろう。原作の主人公は精神的に弱くて戦闘には向いていない青年で、昨今の日本のSFものによくあるといってはなんだが、いわば『新世紀エヴァンゲリオン』の碇シンジのようなタイプをイメージしていた。それをトム・クルーズが演じるというのは違和感を持たずにはいられない。候補にはブラッド・ピットの名前も挙がっていたとも聞くが、なぜ若手を起用しなかったのか?と質問するとストフ氏は「ブラッド・ピットは噂に過ぎず、候補に名前が挙がったわけではない。正直に言って、この手のSFアクションを製作する場合、プロデューサーならまずトム・クルーズ主演でと思うはずだ」と語った。

SFアクション大作=トム・クルーズ主演は自然な流れで、トム・クルーズ自身も脚本を読んでぜひやりたいと決まったのだ。ストフ氏はさらに主人公の年齢設定を上げたことについて、碇シンジ系のナイーブな青年よりも、もっと歳を重ねたキャラクターが今までの価値観を覆されるほうがより面白くなると感じたのだと付け加えた。…後編に続く(文:入江奈々/ライター)

後編/日本のライトノベルをハリウッド超大作に映画化した真相に迫る!/『オール・ユー・ニード・イズ・キル』

『オール・ユー・ニード・イズ・キル』は7月4日より全国公開される。

【関連記事】
父・ジョージ秋山の原作マンガを映画化した秋山命が語る、父への思い
映画化が相次ぎ脚光を浴びる作家・佐藤泰志、ブームの火付け役が語る苦難の道
【元ネタ比較】予想通りに展開する“悪役の知られざる物語”/『マレフィセント』
トム・クルーズ、日本原作の新作ジャパンプレミアで「この日をずっと待っていた」