はじめてのホームシアター:画の迫力は“インチ”だけじゃ決まらない!?

#IMAX#シネスコ#スクリーン#ホームシアター#画面サイズ#TENET テネット

巣ごもりのお正月となり、テレビで映画などのエンタメを楽しんでいる人も多いだろう。ほとんどのお宅でお使いのテレビは、ハイビジョンまたは4Kテレビだと思うが、画面サイズについて意識したことはあるだろうか? 昔のテレビ番組や映画など、自宅のテレビでは左右や上下に黒帯があるコンテンツと接する場合の心構えについて考えてみたい。

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画面サイズ=〇〇インチの意味

テレビで40インチというと、いまや普通サイズ。しかし、ちょっと前のブラウン管テレビなら、“普通”サイズは14インチで、36インチなどというと結構な大画面高級テレビの印象があった。

同じ「インチ」なのに、どうしてこんなに印象が違うのだろうか? それは、単にブラウン管テレビに奥行きと重量、分厚いフレーム部分があって大きく見えたというだけではない。同じインチであっても、実際の大きさも心理的な圧迫感も、昔のテレビの方が大きいからなのだ。

まず、画面サイズの「インチ」が指すのは、画面の“対角線”の長さを表している。

そして、昔のテレビ(SD=スタンダード画質と呼ぶ)は横:縦の比率(画角という)が「4対3」なのに対し、いまのテレビ(ハイビジョンテレビ、4Kテレビ)は「16対9」となっている。これは、かつてのアナログ放送ではかつての映画フィルムに近い縦横比率に倣って用いられたが、地上デジタル放送への移行に伴い、研究結果を受けてより視野角に近い横長に変更されたためである。

たとえば、40インチ(対角1016mm)を例にとると、「4対3」では横幅約80センチ、縦幅約60センチなのに対し、「16対9」では横幅約90センチ、縦幅約50センチとなる。

同じ対角線40インチでも、16対9の今のテレビと、4対3の昔のテレビでは大きさが違う

これは、面積において「4対3」の方が大きいことに加え、人間は心理的に幅よりも高さがあるモノに対して威圧感と迫力を感じるからだ。

したがって、もし昔の「4対3」のテレビで見た40インチと同じぐらいの迫力が得られる新しい「16対9」のテレビを買おうとするなら、縦の長さが同じ60センチ以上になる50インチのものを選ぶべきなのだ。

さらに言えば、昔の放送を今のテレビで同じ迫力で見るためには、2割増しぐらいの大きい画面サイズで見ないと物足りなくなることを意識してテレビ選びをしたい。

映画を見るなら「シネスコ」がいい?

つぎに、テレビで映画を見ると上下に黒帯ができること、映画向きのスクリーンサイズがあることについて説明する。

映画作品は、最近こそデジタルビデオカメラ収録で「16対9(1.78対1)」のものも増えたが、多くはそれよりずっと横長で横と縦の比率が「2.35対1」の「シネマスコープ(シネスコ)サイズ」で作られている。その歴史と詳細については、過去記事「シネスコサイズ/『エデンの東』はシネスコサイズを効果的に使った傑作!って知ってました?」をご覧頂きたいが、ここではその実際の見え方と、家への設置について考えてみたい。

映画館で見て分かるように、「シネスコ」映像の魅力は何よりも、人の視野角ぴったりに設計されたかのような拡がり、気持ちよさにある。風景のような引きの場面や、サラウンドの音声に馴染む。

ところが、この「シネスコ」を家庭で投写するのは、結構難しい。

たとえば、100インチのスクリーンに投写しようとする場合を考えてみよう。「16対9」であれば、幅2メートル20センチ程度となるので、左右にスピーカーを立てて6畳間(江戸間で3.52m×2.61m)でもなんとか設置できるサイズだ。ところが「シネスコ」だと、2メートル50センチ超となり、6畳はかなり厳しい。

しかも、先ほどと同じ考え方で、コンテンツの大半を占める「16対9」の映像を欠けることなく表示するためには、「16対9」スクリーンと同じ縦1メートル25センチにする必要がある。すると、「シネスコ」スクリーンは125インチ程度、幅は3メートル近くが必要になってしまう。

100インチのシネスコ(下)は、100インチ16対9(左上)よりも縦が短くなる分、迫力負けする。100インチ16対9の映像を欠けることなく投写するシネスコスクリーンのサイズは、125インチほどになる。

あなたが見る作品が映画中心ならば、自宅のホームシアターに「シネスコ」サイズのスクリーンを用意するのは実に魅力的だ。しかし、部屋の横幅に制約があり、小さいインチサイズで我慢しなければならない「シネスコ」スクリーンの場合、その中に「16対9」の映像を欠けることなく収めるとなると、映せる画のサイズはかなり小さくなってしまう。

最近、PCディスプレイでも横長のものが多く流通しているが、これもインチサイズ表記の割に実物は小さく感じるはず。設置性も含めて、実際に体験して選びたい。

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さらに悩ましいのはIMAXの画面サイズだ。

「IMAXデジタルシアター」は、横と縦の比率が「1.90対1」で、最先端の「IMAXレーザー/GTテクノロジー」は「1.43対1」。これらは、「16対9」と比べ、上下方向にぐんと広がる。

クリストファー・ノーランが、『ダークナイト』の冒頭シーンなどに使用したのに始まり、『ダンケルク』、『テネット TENET』で使った「1.43対1」という画面サイズの作品は、日本では池袋のグランドシネマサンシャインと109CINEMAS大阪エキスポシティ以外は、IMAXを謳う映画館であっても、上下が「1.90対1」にトリミングされて上映されている。

家庭でもIMAXの魅力を楽しめるサービスとして「IMAX Enhanced」認証を受けた作品の配信が始まっているが、IMAXの魅力の核であるこの“縦に拡大された画面サイズ”が、家庭の横長のテレビでどこまで伝わるかは難しい。やはり視野を超える映像を映画館のスクリーン上で舐めるように眺めるのが、IMAXの良さのような気がする。

それにしても、奇しくも見上げるような映像体験で見る者に心理的な迫力を与えようとした結果、大画面の画角がふたたび「4対3」に近づいたのは興味深い。(文:fy7d)