鬼才監督の裏テーマは、幼児虐待が引き起こす悲劇と激しい怒り?

#スプリット#週末シネマ

『スプリット』
(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.
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【週末シネマ】『スプリット』
ラジー賞常連、シャマラン監督が久々の大復活!

大風呂敷を広げた挙句に呆気にとられるどんでん返しの作風で知られるM・ナイト・シャマラン。『シックス・センス』で鬼才登場! と脚光を浴びるも、近年は低迷気味でラジー賞常連になっていたが、低予算で手がけた最新作『スプリット』はシャマランの大復活を確信させる快作だ。

23人格を演じたジェームズ・マカヴォイ、クレイジーな体験語る[動画]

映画は、ある女子高生の誕生日パーティから始まる。人気者のバースデー・ガールは体面を保つために同級生を分け隔てなく招待、いつも暗い表情で周りと馴染めない少女も会場に来ていた。この少女ケイシーが本作のヒロインだ。パーティがおひらきになり、自分の娘とその親友を送る父親がケイシーにも声をかける。が、荷物を積んでいた父親の代わりに運転席に乗り込んできたのは見知らぬスキンヘッドの男。少女たちは気絶させられ、車ごと連れ去られてしまう。

意識を取り戻した少女たちは窓のない密室に閉じ込められていた。そこに自分たちを拉致した男が現れる。神経質で暴力的な彼に少女たちは恐怖を募らせるが、2人がパニックに陥る中、ケイシーは機転を利かせて彼女たちを救った。一瞬安堵したのもつかの間、男が次に現れた時に少女たちは驚愕する。坊主頭はそのままで女装し、口調もまるで別人になっている。さらにまた違う服装で現れた男は、今度はあどけない様子で自分は9歳の男の子だと主張した。

ジェームズ・マカヴォイが演じるこの男、ケヴィンは解離性同一性障害(DID)で、彼の中には23の人格がある。本作タイトルは、ケヴィンの人格の分裂(スプリット)を言い表しているのだろう。人格によって体質まで変わる可能性を見せる彼には精神医学の女医フレッチャーが強い関心を持ち、ケヴィンは彼女の元で定期的にセラピーを受けている。フレッチャーの前では安定した性格のバリーとして、他の人格たちとの共生について報告するが、もちろん少女たちを監禁していることなどおくびにも出さない。

一方、少女たちも男に複数の人格があることに気づき、自分たちに好意的な人格を味方にしようとしたり、天井裏を探ったりして、脱出を試みる。この場所を知り尽くし、圧倒的に優勢な男の裏をかこうと必死の脱出作戦のスリルとサスペンスも息をつかせぬ面白さだ。やがてケヴィンの中には新たに24番目の人格が覚醒しつつあることがわかり、そこから多重人格者と3人の少女たちの攻防に女医も加わり、さらにスリリングに加速していく。

何と言ってもマカヴォイの熱演が見どころだ。微かな表情の変化や身のこなし方で、子供から大人へ、男から女へ自在に変貌してみせる。23の人格を、欲張って全部出したりしなかったことも功を奏している。ケイシーを演じるアニヤ・テイラー=ジョイは、諦観しているようで強い生命力を持つヒロインを好演。ケイシーの背景が次第に明らかになっていくにつれて、つかみどころなく見えたヒロインの輪郭がはっきりしてくる。

個人的にシャマランの作品でいつも印象に残るのは、必ずと言っていいほど登場する心に傷を負った子供、あるいは幼い頃に虐げられたトラウマを抱えて成長した大人のキャラクターだ。代表的なものでは『シックス・センス』の名子役のハーレイ・ジョエル・オスメントはもちろん、ドニー・ウォルバーグやミーシャ・バートンも忘れられない。こけ脅しのきらいはなきにしもあらずの作風だが、子供への虐待が引き起こす悲劇、激しい怒りこそがシャマランの描きたいものなのでは、とふと思う。

それにしても、大風呂敷を広げる作風は相変わらず。そして今回は、畳んだと思った後も油断ならない。最初から最後まで、思わぬところに驚きが隠されたサービス満点のサスペンス・スリラーだ。(文:冨永由紀/映画ライター)

『スプリット』は5月12日より公開中。

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。