ブライアン・ウィルソン/約束の旅路
ブライアン・ウィルソン/約束の旅路
『リコリス・ピザ』

【MOVIE Talk】お題「音楽映画」 (前編)

ムビコレで執筆中のライターがお題に沿って映画を熱く語る対談企画! 第1回目のテーマは「音楽映画」。音楽&映画ライターの伊藤隆剛と元ヘアメイクの美容ライターでUKロック好きの羽野ハノンに、注目作や好きな作品をたっぷり語ってもらった。

【映画を聴く】「34年後も世界の音楽ファンはスミスを必要としているよ」と伝えたくなる愛すべき青春映画

ザ・スミスやザ・ストーン・ローゼズが好き

羽野:伊藤さんはどんな音楽が好きなんですか?

伊藤:僕は70年代前半生まれですが、最初に衝撃を受けたのがYMOだったんですよ。ちょっと世代がずれているんですけど。その後、高校生ぐらいの時にフリッパーズ・ギターとかを好きになって。だけど基本的にずっと好きなのは、アメリカの古い音楽です。それこそザ・ビーチ・ボーイズとか。あと、『24アワー・パーティ・ピープル』(03年)で描かれている時代のマンチェスターの音楽も好きですね。

羽野:私も同年代です。10代の頃から古いものが好きで、映画もマリリン・モンローの出演作が好きでした。音楽は、ドアーズとかジャニス・ジョプリンとかちょっと前の…サイケというか、マリファナ臭そうな空気感のあるものが好きなんです。

伊藤:羽野さんは結構直感で好きになることが多いですか?

羽野:そうかもしれないですね。私が10代の時に一番好きだったのがザ・スミスです。わかりやすく影のあるものが好きで、そういうものを嗅ぎつける嗅覚はあります。

伊藤:去年公開された『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』すごく良かったですよ。スミスの曲に気持ちを押されてラジオ局をジャックするっていう話で、実話を拡大解釈して作られた映画なんですけど。

羽野:あー、知ってる! すごく見たかったんですが見逃してしまいました。イギリスなら90年代のザ・ストーン・ローゼズも好きです。

伊藤:僕もめちゃくちゃ好きですね。

羽野:最近、再結成してからのドキュメンタリーも見ました(『ザ・ストーン・ローゼズ メイド・オブ・ストーン』(16年))。

伊藤:再結成したんですけど、結局また離散しちゃったんですよね。

羽野:そうみたいですね。

伊藤:自然消滅みたいになっちゃって。残念ですね。

この夏の注目は、ブライアン・ウィルソン

――この夏に「これは映画館で見たい!」と思う映画はありますか?

伊藤:今一番見たいのはブライアン・ウィルソンのドキュメンタリー映画『ブライアン・ウィルソン/約束の旅路』(※8月12日より全国公開)です。ブライアン・ウィルソンって、さっき話に出たビーチ・ボーイズのリーダーの人なんですけど。

羽野:今頭の中で「ココモ」が流れてます。

伊藤:ビーチ・ボーイズの曲はほとんどがブライアン・ウィルソンの作曲なんですけど、「ココモ」は違うんですよ。当時はいろんな理由からブライアンと他のメンバーが対立していて。ブライアンがソロアルバムを出したタイミングで、ブライアン抜きのビーチ・ボーイズが「ココモ」をリリースしたんです。これが映画『カクテル』(88年)の主題歌に使われて大ヒット。ブライアンのアルバムはそれに比べるとあまり注目されませんでした。

ブライアン・ウィルソン/約束の旅路

『ブライアン・ウィルソン/約束の旅路』
(C) 2021TEXAS PET SOUNDS PRODUCTIONS, LLC

――『カクテル』はトム・クルーズ主演の青春映画でしたね。

伊藤:そうです。あと、最近羽野さんが「レコードの日」のコラムで取り上げていた『グッド・ヴァイブレーションズ』(12年)という映画がありましたよね。実は「グッド・ヴァイブレーションズ」ってザ・ビーチ・ボーイズの曲名なんですよ。

羽野:そうなんですね! 知っている人からしたら「あっ!」ってなりますね。

伊藤:ブライアン・ウィルソンはすごく厳しい父親に育てられて、幼少期の父の暴力が原因で、片耳が聞こえなくなっちゃって。だけど1966年にとても緻密なアンサンブルで構築された「ペット・サウンズ」っていう名盤を作ったんですよ。なので、ミュージシャンからのリスペクトもすごい。ちなみに羽野さんって、レコードとかCDみたいなフィジカルメディアには愛着ありますか?

羽野:まだ捨てられなくて持っているものもあります。

伊藤:今サブスクが主流になって、どんどん形がなくなっていくじゃないですか。映画も音楽もパッケージなしで楽しめるから本当に便利で、僕も毎日使っています。でも、やっぱり自分は形があるものしか愛せないと言うか…サブスクで楽しめるものでも、CDやLP、DVDやブルーレイは処分できないんですよね。

羽野:わかります。ライブ会場に足を運ぶ、映画を見に映画館も行く、触れられるジャケットがある、開けたらライナーノーツが入ってる…。そういう触れられる価値ってなくならないと思います。

伊藤:『モダンライフ・イズ・ラビッシュ ~ロンドンの泣き虫ギタリスト~』(18年)と『グッド・ヴァイブレーションズ』がまさにそういう映画だったじゃないですか。形のあるものしか残らない…みたいな話というか。それこそ映画で言ったら『ハイ・フィデリティ』(01年)もその2つと近いです。

音楽ライターになりたかった!?

――レコードやレコード店をうまく使っている映画は多いですよね。そしてCDやライナーノーツをとっておきたい気持ちは私も分かります。

羽野:実は私、ライナーノーツが書きたかったんです。10代の頃、音楽ライターになるかヘアメイクになるかどっちかにしようって思っていて。

伊藤:そうなんですか! 『ビルド・ア・ガール』(21年)っていう映画が、音楽ライターになりたいって言う女の子の話でしたね。

――その男の子版というか、少年が音楽ライターになる話では『あの頃ペニー・レインと』(01年)もいい映画でしたよね。フィリップ・シーモア・ホフマンが出ていて。

音楽もいい! 『リコリス・ピザ』

『リコリス・ピザ』

『リコリス・ピザ』
(C) 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

伊藤:フィリップ・シーモア・ホフマンと言えば、7月1日公開の『リコリス・ピザ』! 主人公の男の子役のクーパー・ホフマンはフィリップ・シーモア・ホフマンの息子なんですよね。この映画はデヴィッド・ボウイの音楽なんかがセンスよく使われているのでおすすめです。あとヒロインがハイムっていうガールズバンドの子ですごい人気ですね。

――三姉妹でバンドをやっていて、映画に出ているのは三女なんですよね。

羽野:気になります、見たいですね。

(後編)へ続く。

※話題にのぼった作品リストはこちら

伊藤隆剛/音楽&映画ライター
伊藤隆剛/音楽&映画ライター

1973年生まれ。出版社、広告制作会社を経て、2013年からフリー。オーディオ&ビジュアル専門誌、音楽誌、カルチャー誌、各種ウェブサイトなどを中心に寄稿。年間100人前後のインタビュー&構成を担当している。最初に映画館にひとりで行ったのは『スタンド・バイ・ミー』と『クロコダイル・ダンディー』の2本立て。最初に買ったCDはプリンスの『サイン・オブ・ザ・タイムズ』。愛読書は和田誠『時間旅行』。

羽野ハノン/ライター
羽野ハノン/ライター

1970年生まれ。主な栄養成分は鳥と音楽。長年ベストムービーは『ベティ・ブルー/インテグラル』と『鉄道員』だったが、『きっと、うまくいく』を見て「これもいいかも」と思った経緯あり。音楽、アート、ファッション、文学などなぜか自分のリアルタイム世代より前のレトロなものに魅かれる特異体質。30歳くらいまで中2病を引きずっており、「生まれ変わったらイギリス人になる!」と言い張っていたちょっと変な人。