『THE BATMAN-ザ・バットマン-』
THE BATMANーザ・バットマンー
『THE BATMAN-ザ・バットマン-』が来年22年 3月11日に公開される
THE BATMANーザ・バットマンー

「バットマン」好きの監督だからこそできた斬新なアプローチ

【週末シネマ】1989年のティム・バートン監督の実写映画1作目が公開されて以来、30年以上もの間に様々な監督と俳優によって描かれ続けてきたDCのスーパーヒーロー、バットマン。今回新たにバットマン/ブルース・ウェインをロバート・パティンソンが演じる、その名も『THE BATMAN-ザ・バットマン-』がついに完成した。

『THE BATMAN-ザ・バットマン-』ロバート・パティンソン インタビュー

監督は、『猿の惑星』シリーズのマット・リーヴス。製作と脚本(ピーター・クレイグとの共同)も手がけたリーヴスは、子どもの頃から「バットマン」の大ファンだというが、作品を知り尽くしているからこそ斬新なアプローチを打ち出せるということを証明して見せるのが本作だ。

もともとは『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』に主演したベン・アフレックが監督・脚本も務める企画としてスタートしたが、紆余曲折を経てアフレックは降板。監督と脚本を手がけたリーヴスは、ゴッサムシティにバットマンが現れてから2年目を舞台に設定した。

主演にパティンソンを迎えた本作において、バットマン/ブルースに関しては今さら説明不要とばかりに物語はいきなり始まる。

得たいの知れない人物役が見事なポール・ダノ

これまでにないほど暗く、雨が降り続く不穏なゴッサムシティでは権力者が次々狙われる連続殺人事件が起きていた。犯人を名乗るリドラーは犯行の際に必ず“なぞなぞ”を残し、警察や“世界一の名探偵”でもあるバットマンを挑発する。

ゴッサムを牛耳る特権階級を倒していくリドラーと格差社会の片隅で虐げられた人々の関係は、ホアキン・フェニックス主演の『ジョーカー』に似た光景にも見える。

ポール・ダノが演じるリドラーの犯行の描写はかなりリアルで、素顔がわからない不気味な姿も含めて、デヴィッド・フィンチャー監督の作品にも似たサイコ・スリラーの風味が強い。『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(07年)や『プリズナーズ』(13年)など得体の知れない人物をやらせたら右に出るものはないダノは今回も、深い闇を見せる。

陰鬱で未熟で無防備な主人公の物語

これまで、バットマンとのコントラストを効かせてブルース・ウェインはクールなセレブとして描写されることが多かったが、本作には華やかな様子はまるでない。ディオールなどハイブランドのモデルでもあるパティンソンはグラマラスなオーラを微塵も見せず、目の周りを黒く塗ったブルースは常に陰鬱だ。大金持ちだが、厭世的といっていいほどニヒルで、それなのに自警活動を続けている。矛盾を抱えた引きこもり具合、精神的な未熟さは歴代のブルース・ウェイン像とは一線を画す。リーヴス&パティンソン版は特に、ブルース・ウェインの物語という印象が強い。

バットマンとして出立ちを変えると、自らの正体も明かさないわりには、スーツとマスクで隠した中身は無防備なほどブルースのままで他者と接する。そこにある種、コスプレめいた空気が生じるように思えた。ゴッサムの荒んだ日常の中にコウモリの姿をした大男がいて、人々の窮地を救っているという奇妙な現実を突きつけるような演出で、バットマンになり切れていない、ある意味揺れっぱなしの主人公が興味深い。

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70年代作品の女性キャラクターの影響を受けたキャットウーマン

一方、場合によっては主人公以上に強烈な存在感を放つのがキャットウーマン/セリーナ・カイルだ。悲惨な過去を背負うからこそ、弱者ではなく強靭な精神で戦うヒロインをゾーイ・クラヴィッツはパワフルに演じる。しなやかな身のこなし、賢さ、強さと同じくらいの脆さはバットマンとも重なり、彼らはそれぞれ復讐を原動力にしている。

リーヴス監督は『チャイナタウン』『コールガール』といった70年代の作品の女性キャラクターに影響を受けたと語っているが、確かにバットマンとキャットウーマンの関係には、『コールガール』でドナルド・サザーランドとジェーン・フォンダが演じた刑事とコールガールを思わせるドラマがある。

バットマンに協力するゴードン警部を演じるジェフリー・ライト、ゴッサムの犯罪王、ファルコーネを演じるジョン・タトゥーロ、そして唯一、ブルースの正体を知るウェイン家の執事アルフレッドを演じるアンディ・サーキス、事前に情報を知らなければ誰なのかわからないほど、外見を作り込んだオズワルド/ペンギン役のコリン・ファレルというキャスティングが見事だ。若き市長候補のベラ・リアルを演じるジェイミー・ローソンなど新進俳優の起用もいい。

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グレイグ・フレイザー(『DUNE/デューン 砂の惑星』20年)が手がける闇に引き込むような映像は、ゴッサム市中に身を置く感覚を与える。3時間近い上映時間だからこそ浸れる世界をじっくり味わってもらいたい。(文:冨永由紀/映画ライター)

『THE BATMAN-ザ・バットマン-』は、2022年3月11日より全国公開。