パワフルでいて美しい『マクベス』、才能が揃ってこそ生み出された傑作!

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マクベス
『マクベス』Apple TV+にて配信中。公式サイトより

デンゼル・ワシントン×フランシス・マクドーマンド主演

【週末シネマ】Apple TV+で配信中の『マクベス』は、ウィリアム・シェイクスピアの四大悲劇の1作をデンゼル・ワシントンとフランシス・マクドーマンド主演で映画化したもの。コーエン兄弟の兄・ジョエルが単独で監督した同作は、モノクロのスタンダードサイズで、20世紀半ば、あるいはもっと時を遡ってサイレントの名画のような美しさだ。

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スコットランドの将軍マクベス(ワシントン)は荒野で3人の魔女に遭遇し、王になると予言される。彼は妻(マクドーマンド)と共謀して主君を暗殺し、王位に就くが、夫妻はそのまま暴力と狂気の渦に引き込まれていく。

オスカー俳優たちの台詞の美しさと説得力に感嘆

言うまでもなくワシントンはハリウッドのトップスターの1人だが、そのキャリアは舞台から始まった。長年映画での活躍が中心だったが、近年は再び舞台に立ち、2010年にトニー賞主演男優賞を受賞(「Fences」)した。勇敢だが弱気も起こし、虚勢を張るマクベス像で、円熟した演劇人デンゼル・ワシントンの真価を存分に堪能できる。

マクベス夫人を演じるマクドーマンドは本作のプロデューサーであり、夫であるジョエルに映画化を持ちかけたその人でもある。『スリー・ビルボード』(17年)、『ノマドランド』(20年)で気骨ある女性を演じてアカデミー主演女優賞を2度受賞した名優であり、ここでは夫以上の野心家で強靭なアンチヒロインを演じる。

マクドーマンドと同様にアカデミー主演男優賞を受賞(『トレーニング・デイ』02年)したワシントンとの組み合わせは、とてつもなくパワフルだ。

たとえ彼らの台詞の一言一句が完全に聞き取れないとしても、音の響きの美しさを感じ取れるはず。時にささやくような発声は、まさに映画だからこそ可能な演技であり、同時にリアルな言葉として説得力がある。

主演2人に加えて、『ストレイト・アウタ・コンプトン』(15年)や『イン・ザ・ハイツ』(21年)のコーリー・ホーキンズ、Netflix『クイーンズ・ギャンビット』(20年)などのハリー・メリングのほか、英米の舞台で活躍する俳優たちが出演するが、特に強烈な印象を残すのは、3人の魔女を演じたキャスリン・ハンターだ。イギリスの舞台俳優で、日本で野田秀樹の舞台にも出演している名優。驚愕的な身体の柔軟性と印象的な声色で、魔女の異様な迫力を表現し、ニューヨーク映画批評家協会賞助演女優賞を受賞した。

モノクロの映像と現代の技術を駆使した、古典らしい美の世界

シェイクスピアの作品はこれまで数多く映画化されてきた。モノローグ(ソリロキー)の長台詞は、その人物の心の声としてヴォイスオーヴァーで表現することが多いが、本作では舞台で演じるのと同様に、登場人物たちが発声する形でその場面を演じる。これ以上ないほど演劇的なはずなのに、見事に映画になっている。その演出に大きく貢献しているのはモノクロの映像と幾何学的な美が印象的なセットだ。

様式的な美術や衣装、光と影のコントラストを効かせた映像には、鬼才オーソン・ウェルズが監督・主演した『マクベス』(48年)やベルイマンの作品、ドイツ表現主義の影響が色濃くうかがえるが、コーエン監督によれば、ドイツ出身のF・W・ムルナウの『サンライズ』(27年)がインスピレーションだという。白と黒と灰色の世界は、それだけで日常から切り離された非現実的な空間を作り出す。

荒野や森などの場面も含めた全シーンを屋内で撮影し、CGも積極的に取り入れ、現代の技術を駆使して描くことで、より古典らしい姿になっているのが面白い。舞台芸術では実現しきれない、実景で撮っては写実的になりすぎる。そんな虚構の世界が画面上に存在している。不朽の名作の映画化にふさわしい才能が揃って生み出された傑作だ。(文:冨永由紀/映画ライター)

『マクベス』はApple TV+にて配信中