【週末シネマ】思春期の不安定さを見事に表現。注目女優の驚嘆すべき演技力は必見!
テキサス州には、犯罪に巻き込まれた遺体が次々と発見される場所がある。犠牲者は1960年代後半から現在に至るまで後を絶たない。テキサスシティ付近の広範囲にわたる地域が複数の殺人者による犯罪の現場となっているという。『キリング・フィールズ 失踪地帯』はこの実話を基に、ハリウッドで最も注目される十代、クロエ・グレース・モレッツと、『アバター』『タイタンの逆襲』のサム・ワーシントンを主演に迎えて描くクライムサスペンスだ。
血の気の多い殺人課の刑事、マイク(サム・ワーシントン)とニューヨークから転属してきたブライアン(ジェフリー・ディーン・モーガン)のコンビが、連続少女失踪事件の捜査にあたるうち、マイクが気にかけて面倒を見ていた少女、リトル・アン(クロエ・グレース・モレッツ)が姿を消す。彼女が事件に巻き込まれたと確信した2人は意見の衝突を繰り返しながらも必死の捜索を続け、やがて“キリング・フィールド”と呼ばれる犯罪多発地帯へと踏み込んで行く。
荒涼とした風景に何とも言えない息苦しさが漂う。奇妙な風体の木々が立つ野原は、そのまま異界に地続きで通じるような禍々しさがあり、人間の底知れない邪悪さが形になったかのようだ。日が暮れていくなか、少女が1人歩く姿を映すだけで不吉な胸騒ぎを誘う。アミ・カナーン・マン監督の手腕によるものだが、彼女の父は『インサイダー』『コラテラル』などを手がけた巨匠マイケル・マンだ。父親譲りの徹底したリサーチによる作劇は、絵空事だとタカを括ることを許さない真実味を帯びて迫ってくる。
亡父と同じ職務に就き、生まれ育ったテキサスという土地を熟知しているマイク、都会から来た異分子としての違和感を抱きつつ、いつの間にかマイク以上に捜査にのめり込むブライアン。2人は、失踪した少女を何としても救い出すという一点のみで結びついている。この少女、アンを演じるクロエ・グレース・モレッツが素晴らしい。自堕落に暮らす母親に育てられ心に傷を持つアンは、大人びて醒めた表情をするかと思えば、疑うことを忘れた素直さも見せる。少女のアンバランスな心の揺れを、13歳(撮影時)にして見事に演じたクロエは、同様に『モールス』ではヴァンパイアの哀しみを、『ヒューゴの不思議な発明』では無邪気な健気さを的確に表現した。そのセンスには驚嘆するばかり。『タクシー・ドライバー』の頃のジョディ・フォスターの再来、あるいはそれ以上の可能性をも期待させる逸材だ。彼女の持つみずみずしい生命力は、どうしようもなく重く暗い物語にも押しつぶされることのない、鮮烈なひかりを放っている。
『キリング・フィールズ 失踪地帯』は4月14日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国公開される。(文:冨永由紀/映画ライター)
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