後編/ポスト・ジブリ!?『あの花』旋風を巻き起こした若手プロデューサーが『ここさけ』への熱い想いを語る

#映画作りの舞台裏

 『心が叫びたがってるんだ。』 
(C)KOKOSAKE PROJECT
 『心が叫びたがってるんだ。』 
(C)KOKOSAKE PROJECT

目標は10億円突破!
『あの花』を超えなければいけない

テレビシリーズ放映からじわじわと人気が広がり、劇場版は興行収入10億円を超える大ヒットとなったオリジナル・アニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(以下『あの花』)。この作品によりヒットメーカーとなった監督・長井龍雪、脚本・岡田麿里、キャラクターデザイン・田中将賀が再結集し、完全オリジナルストーリーによる劇場アニメ『心が叫びたがってるんだ。』(以下『ここさけ』)が生み出された。『あの花』に続いて、ファン待望の新作を手がけたプロデューサーである、アニプレックスの斎藤俊輔氏が製作秘話について深く熱く語ってくれた。

【映画作りの舞台裏】前編/ポスト・ジブリ!?『あの花』旋風を巻き起こした若手プロデューサーが『ここさけ』への熱い想いを語る
【映画作りの舞台裏】中編/ポスト・ジブリ!?『あの花』旋風を巻き起こした若手プロデューサーが『ここさけ』への熱い想いを語る

斎藤氏にとってアニメとは何かを尋ねてみると次のようにコメントしてくれた。「ゼロから創る、クリエイターの想いが一番詰まった形式がアニメだと思っています。実写で俳優さんが演じる良さももちろんありますけど、アニメは背景や小さな小道具ひとつとっても描かないことには出来上がりませんから。そこにクリエイターのこだわりがひとつひとつ詰まっているんです」。

確かに実写はカメラを対象物に向ければ何かしら写るわけだが、アニメは描かないことには映像とならない。

また、これまで数々のテレビアニメシリーズなどを手がけてきた斎藤氏だが、今までは原作ものがほとんどであった。「オリジナルを生み出すのをゼロから携わったのは『あの花』が初めてです。長井監督が言われてたんですが、原作ものは原作を大切に預かってアニメ化して、ファンの方に評価をいただく喜びがありつつ、最終的には原作者に作品を返さなきゃいけないという気持ちがあります。でも、オリジナルは自分たちで生み出し、誰に返さなくてもいい。自分たちが出発点という責任感がありますが、その責任に愛情を持てるのがオリジナルの醍醐味だと思います。やはりオリジナルを作るには、苦しくヘビーなこともありますが、その分楽しさと喜びも深い。長井監督たちにお願いするなら、もうオリジナルしか考えられませんね」と斎藤氏は言う。

その言葉に先走って次回作も期待するところだが、そもそもこの3人のクリエイターたちに他にはないパワーを感じられるのかと聞くと、間髪入れずに「はい、そうです」と肯定した。「この3人のコラボレーションは他のプロジェクトには見られない稀有なものだと思います。作品の宣伝としても、クリエイター3人を打ち出していくというやり方は珍しいんじゃないでしょうか」と斎藤氏は言い、この3人に足し算ではなく掛け算となる化学反応的な動力を感じたと教えてくれた。

そして『ここさけ』は、前作の『あの花』よりもさらに、「3人で生み出した」という感覚が強いという。

『あの花』は岡田氏が中心となって、岡田氏の内なるものを長井監督と田中氏で引き出していくというようなアプローチだったが、『ここさけ』は3人が密にぶつかり合いながら作っていく作業だったとか。斎藤氏いわく、「長井監督たちは同級生で仲がいいから、一緒になって暗中模索できるのでしょう。とは言っても、自分たちが作りたいものに向かって突き進むのではなく、見てもらう側の方たちのことを一番に考えて作品を仕上げるクリエイター」なのだ。斎藤氏はリスペクトをこめて、「自分はこの3人のひとりのファンであり、一番最初の観客として作品を見たい、という思いで作ってます」と微笑む。

いよいよ公開直前となった『ここさけ』。劇場版『あの花』は全国64館で公開がスタートされ、興行収入10億円を記録したが、『ここさけ』はその倍以上の142館で公開がスタート。さて、今回の目標は?と聞くと「そうですね、『あの花』以上に沢山の方々に作品を見てもらいたいので、10億円は突破したいです」と頼もしい答えが返ってきた。

劇場版『あの花』は同時期公開中だったスタジオジブリの『風立ちぬ』よりもスクリーンアベレージ(上映1回あたりの興行収入)が高かったことも大きなニュースとなった。今回のライバルとして照準を合わせているのはどこだろう?

「うーん、ライバルは自分たち自身ですね。前作より公開規模も製作費も大きいので、やはり『あの花』を超えたいし、超えないといけないと思っています。作品自体は『あの花』も『ここさけ』も比べようがないくらいどちらも愛してますけど(笑)」。そう語る斎藤氏の瞳からは静かでいて熱いものを感じた。

ポスト・ジブリ! 打倒・細田守監督!などというアグレッシブな姿勢ではなく、クリエイターを尊重して信頼して、自分自身もベストを尽くす斎藤プロデューサー。これからも彼が誠実で丁寧に生み出す作品に大いに期待したい。

まずは『ここさけ』が成功し、長井監督&岡田氏&田中氏による次回作が見られることを強く願っている。(文:入江奈々/ライター)

『心が叫びたがってるんだ。』は9月19日より全国公開される。

入江奈々(いりえ・なな)
1968年5月12日生まれ。兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。

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