80歳を超えてなお、ペースも質も落とさずクリーンヒットを放ち続けるクリント・イーストウッド監督/前編

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クリント・イーストウッド監督
(C)2014 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC ENTERTAINMENT
クリント・イーストウッド監督
(C)2014 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC ENTERTAINMENT

若い世代にも響く
イーストウッド映画の魅力

長く歩んだ人生で培った価値観をしっかり打ち出しながら、若い世代にも響く同時代性があり、かつ時代を超えても古びることのない普遍性も持つ。それがクリント・イーストウッドの映画の魅力だ。それは何より、自分の作る芸術(=映画)は娯楽である、という哲学に基づいているからだろう。

アカデミー賞作品賞、監督賞に輝いた『許されざる者』『ミリオンダラー・ベイビー』をはじめ、イーストウッドの作る映画は明るい内容とは言えないものがほとんどだが、決して、ただ陰鬱なわけではなく、俳優として60年代から活躍しながら、セルジオ・レオーネ、ドン・シーゲルといった娯楽作の名匠のもとで学んだ映画術が活かされている。無駄を削ぎ落とし、メリハリを効かせたリズムのある演出で、アクション、サスペンス、西部劇、人間ドラマ、それぞれのジャンルで名作を撮っている。演出も、俳優としての演技も前へ前へと攻めていかない「引き」の美学に徹して淡々と、時に悲哀をユーモアに変え、あるいは冷徹に感じられるほどの静けさで理不尽な現実を描き出す。

伝説のジャズ・ミュージシャン、チャーリー・パーカーを描いた『バード』やジョン・ヒューストン監督を主人公のモデルにした『ホワイトハンター ブラックハート』、近年では『インビクタス/負けざる者たち』、『J・エドガー』など実在の人物を題材にした作品も多いが、波瀾万丈な人生を送った偉人を描くときもドラマティックに盛り上げたりはしない。その精神は、ブロードウェイ・ミュージカルを脚色した最新作『ジャージー・ボーイズ』で、60年代に一世を風靡したポップ・グループ「フォー・シーズンズ」を描く際にも貫かれている。

イーストウッドは1930年生まれの84歳。50年代に俳優としてデビューするが、映画では端役ばかりで、人気を得たのは59年から65年まで放送されたテレビシリーズ『ローハイド』のカウボーイ役だった。シリーズ出演中の64年から、イタリアでセルジオ・レオーネ監督と組み、『荒野の用心棒』をはじめとする、いわゆるマカロニ・ウエスタンで人気を博す。逆輸入されるような形でアメリカに戻り、1967年にプロダクション「マルパソ」を設立。71年にはドン・シーゲル監督のもとで、その後17年間演じ続けた『ダーティ・ハリー』シリーズの第1作に主演。さらに主演も兼ねた『恐怖のメロディ』で監督デビューを果たしている。70年代から80年代にかけては『ダーティ・ハリー』シリーズやアクション作への主演を続けながら、ほぼ毎年1本のペースで監督・主演作を作り続けた。この間、86年からカリフォルニア州カーメル市の市長を1期2年間務めているのだから、その精力的な活躍には驚くばかりだ。(…後編へ続く「老いてなお華やかな女性関係」)(文:冨永由紀/映画ライター)

『ジャージー・ボーイズ』は9月27日より公開中。

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