【元ネタ比較!】儲け主義で製作された劇場版では決してない、涙ウルウルの『あの花』

『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』
(C) ANOHANA PROJECT
『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』
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ああ、笑いたきゃ笑うがいい。また泣いてしまうんだろうなと思ってはいたが、『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』を見て、やはり涙してしまった。

[動画]『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』予告編

フジテレビの深夜枠アニメ『ノイタミナ』で2011年4月に放送開始され、オリジナルアニメながら人気が出だした頃は、気になりつつも一歩踏み出せないでいた。メインキャラが銀髪の不思議感ある美少女で、見た目とのギャップありありの“めんま”というネーミング。このいかにもアニメファンが飛びつきそうなキャラにひいてしまっていたのが大きい。

ただ、たまたま旅行で物語の舞台である秩父を訪れたとき、“あの花”グッズはもちろん、聖地巡礼のファンをあちこちで見かけ、そこまでイイのか?と興味のほうが上回り、見てみることにした。

そんな斜に構えた入りだったのだが、回を追うごとに引きこまれていった。仲間の1人である“めんま”の事故死をきっかけに疎遠になってしまった元仲良しグループという設定からしてドラマチックで、5年後に“めんま”の幽霊がかつての仲良しグループのリーダー格の少年の前に無邪気な少女の魂を持ったまま現れるというファンタジックな内容は、言わば浮世離れしたストーリーだ。しかし、しっくりと肌に馴染むリアリティがある。それもネガティブな方向で。

主人公のかつてのリーダー格である少年はいまは引きこもり同然であったり、“めんま”の母親は元仲良しグループを不快に思うほど傷が癒されてなかったり。舞台となっている秩父も、地方というには都心から近く、郊外というには都心からは遠い、中途半端な田舎感がある。どうとでも自由にコントロールできるアニメだからといってご都合主義に展開させるわけでなく、甘くない現実に寄り添ったリアリティが好感もてるのだ。

“めんま”のキャラだけでなく抵抗感を持つ要素はいくらでもある。秩父が舞台なこと自体も、またスナック菓子など実在の商品が登場するのにも大人の事情を感じずにはいられない。そうそう、最近のアニメや漫画の風潮である、ユルいフレーズの書いてあるTシャツも御多分に洩れず踏襲している。『けいおん!』の唯ちゃんに代表される例のユル文字Tシャツを主人公が着ており、案の定、安くない値段でグッズ販売されているのだ。

それでも、現実味ある細やかな演出で主人公たちの感情が違和感なくスッと入ってきて、いつしか涙が頬を伝っているのだ。さすがに思春期の恋愛と自尊心のせめぎ合いに同調して泣くことはできなかったが、亡き友への想いや自己の葛藤の部分ではカタルシスという言葉だけでは済ませたくないものを感じさせられた。

きっと、この“めんま”という存在は誰の心にも住んでいるからじゃないだろうか。死んでしまったわけではなくても、今では連絡を取らなくなった幼き日の友であったり、あるいはもう戻ることはない子ども時代の自分自身なのかもしれない。子ども時代との決別を日本人にとっての原風景とも言える自然豊かな秩父の町並みを背景に描かれるといやでも心に染み入ってくる。

そして、そんな切なすぎる”めんま”の鎮魂の作業が行われたテレビシリーズは収束を迎えており、続編を作るには無理があるところ。どうやって劇場版にしたのかと気を揉んだが、いい作品に仕上がっていてホッとした。テレビシリーズの総集編の前後に新作映像をくっつけただけのおざなりなモノではなく、誠意ある作りなのだ。

劇場版も細やかな視線が行き届いており、テレビシリーズから1年後の彼らのちょっと成長した姿と“めんま”へのさらなる想いを絡めつつ、子ども時代の掘り下げたエピソードも追加してそれぞれのキャラクターのバックグラウンドを描きこみ、物語に厚みを持たせている。

儲け主義で製作された劇場版ではなく、作るならきちんと作りたいという作り手側の作品への愛が感じられる。ストーリーを知っているだけに冒頭から涙ウルウルとなっても、お膳立てされた涙物語に乗っかってみるのもたまにはいいかなと思える。

初めて見る人も楽しめると思うが、単なる総集編ではなく厚みを持たせた凝った作りになっているため、時系列が前後するのが少しわかりづらいかもしれない。監督自身、ファンの期待に応えたいという思いで劇場版を作ったそうで、その点では大成功だろう。タイトルの挿入もニクいほどのグッドタイミングで心つかまれ、テレビシリーズと同じアーティスト、Galileo Galileiの新曲のエンディングが涙にさらに追い打ちをかける。ある花の名前が歌詞に登場し、めんまの事故現場に咲いていたとされる花もその花に見え、ファンとしては“あの花”というのはもしかして……と思いを巡らせてしまう。作り手の思うツボと知りつつも、ファンなら「超平和バスターズはずっとなかよし!」と心の中で叫んでしまうことだろう。(文:入江奈々/ライター)

『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』は8月31日より全国公開される。

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