【元ネタ比較!】あの「AKIRA」の大友克洋原作をアニメ化! でも鑑賞は自己責任で

大友克洋監督作『火要鎮』
(C) SHORT PEACE COMMITTEE (C) KATSUHIRO OTOMO/MASH・ROOM/SHORT PEACE COMMITTEE
大友克洋監督作『火要鎮』
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大友克洋監督作『火要鎮』
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カトキハジメ監督作『武器よさらば』
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『SHORT PEACE ショート・ピース』

そもそも、「AKIRA」の大友克洋が1979年に発刊した初の漫画作品集と同じタイトルを持つアニメオムニバス映画『SHORT PEACE ショート・ピース』は、漫画作品集「ショート・ピース」からの映画化ではない。映画『SHORT PEACE』のなかの大友克洋が監督した1本、『火要鎮』からしてほぼアニメオリジナルと言っていいものだ。大友克洋が過去に同じタイトルの漫画を描いているようだが、聞くところによると出版されているかも不明で、自称大友ファンの私もお目にかかったとはない。それにこの漫画はタイトルこそ同じだが、内容は大きく異なるものだったようだ。

[動画]大友克洋らクリエイター8人が新作『SHORT PEACE ショート・ピース』記者発表

原作比較はできないが、ついでにアニメ『火要鎮』について言わせてもらうと、“八百屋お七”を彷彿とさせる江戸情緒溢れる悲恋もので、これまでにもイベントで上映され、文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞などご大層な賞を受賞しており、芸術的には優れたものであるようだ。スクリーン上下を切って紋様を入れて絵巻物風になっており、着物や髪型から江戸時代の走り方までディティールにこだわって描かれている。国際的なフェスティバル出品を視野に入れて江戸モノにしたというだけあって、そりゃぁここぞとばかり日本的な様式美満載で、キレイなことはキレイ。でも、言ってしまえばそれだけで、絞り出すなら火事の迫力がやや大友的かなというぐらい。確かに、80年代の漫画界を舞台にした半実録漫画・島本和彦原作「アオイホノオ」で主人公が大友作品を見て愕然とすることを引き合いに出すまでもなく、大友克洋の画力が圧倒的に素晴らしいことは間違いないが、今回は表面的な美としか感じられなかった。若い時分に傑作を生み出した作家は、年を取るとクリエイティブなエネルギーが枯渇して目先の趣味に走りがち、という目を逸らしたい現実を見てしまった気がした。そういえば、漫画新連載の話はどこへいってしまったんだろう。

さて、脱線が長くなってしまったが、映画『SHORT PEACE』には原作モノもある。「AKIRA」連載開始の一年ほど前、1981年にヤングマガジンに掲載された大友克洋原作の同タイトル漫画をアニメ化した『武器よさらば』だ。ヘミングウェイ原作小説とは関係なく、近未来を舞台にガッツリと戦場を描きながらもブラックな皮肉を効かせた大友克洋らしい短編だ。この漫画に登場するパワードスーツや無人の戦闘メカや軍用車はオタク心をくすぐるものばかり。当時ガンダムブームもあったからか、原作は大作でもないのに玩具メーカーから模型化の企画もあったらしく、今回アニメ化の監督に当たったのはガンプラ(機動戦士ガンダムのプラモデル)のコンセプトデザインなどで知られ、軍事オタクでもあるカトキハジメだ。

オープニング、ロックが流れるなか軍用車に乗った男たちが引退後の夢について雑談している、その乾いた男臭い雰囲気は大友克洋作品らしい空気感で、お!と思わせられた。絵柄も細い線にグラデーションの濃淡で影がつけられ、大友克洋自身が手がけたNHK教育テレビの当時の人気トーク番組『YOU』のオープニングイラストを思い出させるような80年代風でいい。わからない向きには、不本意な例えだが、わたせせいぞうのイラストの濃淡のタッチといえばわかるだろうか。

そして戦闘シーンが始まると、さすがカトキハジメ、原作よりも武器は緻密に描かれ、作戦の進行も克明でわかりやすく展開していく。原作ではなんか撃ってるなぁと思って読んでいたけど、こういうことが繰り広げられていたのか〜と感心していると、あれよあれよと戦闘が進展していき、原作にはなかったステージでの戦闘が開始。おいおい、これでは長編のプロローグのようで、この先に壮大なストーリーがあるのかと期待してしまうではないか。しかし、案の定、原作とほぼ同じラストが唐突にやってくる。原作のほうはギュッと詰まった内容で激しい戦闘から一気にあっけないラストに突き落とされ、ブラックジョークと戦争の虚しさと殺伐とした未来観がない交ぜになった余韻に浸れることができた。しかし、このアニメ版のほうは戦闘シーンが無駄に本格的で長いだけに、突き放されるラストとアンバランス過ぎて、下手すると何が起こったかわからない観客もいるんじゃないだろうか。監督がミリタリー趣味に走って描きたいものを描いて焦点を狂わせ、引き伸ばしてしまった結果だろう。やはり短編には短編のリズムと短編だからこその良さがあるのに、残念だ。

だいたい、短編4本からなる映画『SHORT PEACE』のなかでこの『武器よさらば』だけ近未来を舞台にしており、他3本は日本の古い時代のもので、『武器よさらば』は浮いてしまっている。映画のテーマを“日本”としたから『武器よさらば』の舞台は“近未来の東京”ということにするということで、一貫性取れてる! オッケー!となったらしい。うーむむ。

最後に、このオープニング+短編4本からなる『SHORT PEACE』が全編でも70分弱しかないことも念頭に入れ、見に行く方は自己責任で見に行って欲しいと言っておこう。(文:入江奈々/ライター)

『SHORT PEACE ショート・ピース』は7月20日より全国公開される。

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[動画]『SHORT PEACE ショート・ピース』予告編

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