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「なりたい自分」じゃなきゃダメ? 意地悪な現実から離れ、優しさを思い出させる珠玉作 | 映画/DVD/海外ドラマ

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(2019年 9月 20日)

【週末シネマ】「なりたい自分」じゃなきゃダメ? 意地悪な現実から離れ、優しさを思い出させる珠玉作

『「なりたい自分」じゃなきゃダメ? 意地悪な現実から離れ、優しさを思い出させる珠玉作』
『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』
(C)2018 A24 DISTRIBUTION, LLC

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[ムビコレNEWS] 
【週末シネマ】『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』
中二少女の物語を、オバマ前アメリカ大統領も絶賛!

アメリカでは昨年の賞シーズンの注目作でインディペンデント・スピリット賞新人脚本賞など数多くの賞に輝き、バラク・オバマ前アメリカ大統領が絶賛した『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』は、中学生活最後の1週間を迎えた8年生(エイス・グレード)の少女ケイラの物語だ。

孤独な少年が唯一無二の存在になっていく姿がドラマティック!

ニキビがあって、ちょっと太めのケイラは、「学年で最も無口な子」に選ばれてしまうほど目立たない存在だが、家ではスマートフォンやコンピュータにかじりつきでSNSをチェック、自らYouTubeにチャンネルを作って動画を投稿している。内容は同世代に向けたポジティブなメッセージだが、借り物の言葉をつないでトチってばかりの素人くさい仕上がりで閲覧数は多いもので数回程度。それでもアップし続けている。「最も無口」と見なされるのはそんなにショックなのかとも思うが、沈黙が美徳にならない場所では大げさに言えば死活問題だ。アプリでニキビを修正し、明るく前向きでみんなの人気者というキャラが、ケイラが設定した「なりたい自分」像らしい。が、それが正解かどうかは本人も疑問を抱き始めている。

学校に友だちがいなくて孤立気味で、そんな娘をシングルファーザーの父親は心配して何かと気遣うが、ケイラは「ウザい」とはねつけてばかりいる。学校事情など細部は異なるが、8年生は日本ならば中学2年生に当たる年齢であり、“中二病”という現象は万国共通。SNSなど時代特有の流行を取っ払って残るのは思春期という現象の普遍性だ。大人ならば、自分も似たような感じだったと思い返す人が大半ではないだろうか。

イケメンだが性格は残念なクラスメートにときめいたり、人気者女子の誕生パーティに行ったり、入学前に高校生活を1日体験するプログラムに参加して意気投合した高校生と交流したり、と中学生活の最後にあれこれ模索しながら、ケイラは自分と向き合っていく。





ケイラを演じるのは、2003年生まれのエルシー・フィッシャー。『怪盗グルーのミニオン危機一発』で主要キャラクター「アグネス」の声優を務め、映画やドラマで活躍する芸達者で、自意識過剰で不器用な少女のもがく様をいきいきと演じる。監督は、YouTuberから人気コメディアンとなり、俳優、ミュージシャンとしても活躍するボー・バーナム。1990年生まれのバーナムは、脚本に自身の体験も織り込んだという。

アメリカ人がよく使う「スイート」という言葉は、味覚としての甘さを表すのはもちろんだが、思いやりや善意のある優しい人柄を表すものでもある。その意味で、ケイラの父親はなんてスイートなのだろう、と思う。母親の不在について、ほとんど触れないまま物語は進むが、それに意味があることはやがてわかる。疎ましがる娘に気を使いながら世話を焼き続ける父親がケイラに語りかける場面が丁寧に描かれる。

実用的な解決法にはならないかもしれない。だが、この父親の言葉に心の底から共感し、目の前に悩んでいる子どもがいたら、同じように語りかけてみることだ。子どもが耳を傾けたならば、この映画のように即効とは限らないが、自分には百パーセントの味方がいてくれたという実感は子どもにとって何にも代えがたいよりどころになる。

「なりたい自分」という、ちょっと気の利いた風の言い回しは実は「こうあらねばならない」という思い込みの言い換えでもある。なりたい自分はあっていいし、それを目指して努力するのもあり。だが、それがすべてというわけでもない。

8年生のケイラが18歳の自分に語りかけるメッセージにグッときた。父親の言葉はちゃんと伝わっている。愛されることによって自分を大切にすることを理解している。

人を人とも思わない自己中心のキャラクターは出てくるが、真に残酷な人間が1人もいないところも救いになっている。誰もが皮肉屋の意地悪になりがちな現実から少し逃避し、優しさを思い出させてくれる珠玉作だ。(文:冨永由紀/映画ライター)

『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』は9月20日より公開中。

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。



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