オールドマンはおそらく、過去にチャーチルを演じてきた俳優の中で、肉体的には最も似ていない人物だろう。チャーチルはふてぶてしいベビーフェイスを誰もがよく知る偉人。骨格からしてまるで別人になるための大きな助けとなったのが、辻一弘の特殊メイクだ。90年代に渡米し、『PLANET OF THE APES/猿の惑星』(01)など大作で仕事をし、2度のオスカー・ノミネートも受けながらも映画界を離れ、2012年からは現代美術家として活躍する辻のアート作品は、過去の偉人たちの顔を再現する彫刻。生き写しの頭部を造ることだが、本作のメイクでその点にはこだわっていない。
シルエットはそっくりだ。髪の生え際や皮膚感など、クローズアップになっても作り物めいた違和感はゼロだが、目鼻立ちそのものは極端に変えず、オールドマンが自然に表情を作れる余裕がある。チャーチルという役は、毎回3時間半をかけた精巧ヘアメイクと、それを施された俳優の演技による共同作業によって完成する。オールドマンと辻がそれぞれアカデミー賞主演男優賞、メイクアップ・ヘアスタイリング賞に輝いた結果がすべてを表している。