アカデミー賞、主張せずとも反トランプ鮮明! ハリウッドの寛容性と多様性が前面に

多様性が見事に現れた俳優部門の受賞者たち。左からマハーシャラ・アリ、エマ・ストーン、ヴィオラ・デイヴィス、ケイシー・アフレック(アカデミー賞公式サイトより)
多様性が見事に現れた俳優部門の受賞者たち。左からマハーシャラ・アリ、エマ・ストーン、ヴィオラ・デイヴィス、ケイシー・アフレック(アカデミー賞公式サイトより)

第89回アカデミー賞が26日(現地時間)に発表され、『ムーンライト』が作品賞を受賞、『ラ・ラ・ランド』が監督賞、主演女優賞など最多6部門を受賞した。

手違いがあり、プレゼンターのウォーレン・ベイティとフェイ・ダナウェイが一度は『ラ・ラ・ランド』を読み上げたが、壇上に上がった『ラ・ラ・ランド』のプロデューサーがスピーチをしている最中に間違いが発覚、「これは『ムーンライト』がとった賞です。僕が直接渡したい」と『ムーンライト』の関係者たちをステージに上げた。

前代未聞!アカデミー賞授賞式でハプニング、作品賞を『ラ・ラ・ランド』と間違えて発表!

どうやらベイティとダナウェイに渡されたのは、主演女優賞の受賞者が書かれた封筒だったようだ。

デイミアン・チャゼルは32歳で、史上最年少で監督賞受賞を果たした。

脚本賞とマハーシャラ・アリが助演男優賞にも輝やき、3部門を受賞した『ムーンライト』が『ラ・ラ・ランド』に続き、ケイシー・アフレックの主演男優賞、脚色賞を受賞した『マンチェスター・バイ・ザ・シー』、技術部門で2部門受賞の『ハクソー・リッジ』が続いた。

ジャスティン・ティンバーレイクが歌曲賞候補の「Can’t Stop the Feeling」(『Trolls(原題)』をうたいながら、会場内に入っていく形で幕を開けた授賞式はオープニングから総立ち。ジャスティンに紹介されて登場した司会のジミー・キンメルは例年の司会者同様、候補者いじりをしつつ、「ドナルド・トランプに感謝したいと思います。去年のこと覚えてますか? オスカーが人種差別みたいに思われていたけど」と、イスラム圏7カ国からの入国禁止令などを連発するトランプ大統領にチクリ。

「ハリウッドでは、出身地で差別したりしません。私たちは年齢と体重で差別するんです」、トランプに“過大評価された女優”と批判されたメリル・ストリープには「素敵なドレスですね? (トランプの娘の)イヴァンカのブランド?」と話しかけるなど、皮肉まじりのジョークを連発した。

受賞者のスピーチは敢えて政治的には走らず、あらゆる人間を受け入れるハリウッドの寛容性や、今まで自分を支えてくれた両親や関係者に感謝する内容が多かった。

助演男優賞を受賞した黒人俳優でイスラム教徒のマハーシャラ・アリ(『ムーンライト』)は4日前に娘が生まれたことを明かし、賞レースを支えてくれた妻に感謝した。敢えて政治的コメントはせず、登壇前には同カテゴリーで候補のジェフ・ブリッジスと握手した。3度目のノミネートで助演女優賞を受賞した黒人女優のヴィオラ・デイヴィス(『フェンス』)は「この映画は人を、人生を、赦しを描いた物語です」「私たちアーティストは、人生の喜びを伝えることができる職業です。神に感謝します」と語った。

外国語映画賞は、入国禁止令にボイコットして授賞式を欠席したイランのアスガー・ファルハディ監督の『セールスマン』が受賞した。スピーチの代わりにメッセージを届けたファルハディ監督は欠席の理由を、自国のイランを含めて入国禁止を指定された7カ国の人々へ敬意を表すためと説明、「社会を、アメリカと敵と分断することは恐怖を生みます」「映画を作る人々はカメラを回し、人間を描いて、様々な国や宗教のステレオタイプを壊していくことができます。私たちと他者の間に共感を生むことができます。その共感は今日、我々がかつてないほど必要としているものです」と語った。

アニメーション部門のプレゼンターを務めたガエル・ガルシア・ベルナルは「メキシコ人として、ラテンアメリカの人間として、我々を分断する壁には反対します」とコメントした。

最多14部門で候補になった『ラ・ラ・ランド』が下馬評通りに最多受賞を果たすも、最後の作品賞発表で信じられないような大どんでん返しが起きた今年のアカデミー賞。歴史に残る授賞式になったのは間違いない。

【受賞結果】

作品賞
『ムーンライト』

監督賞
デイミアン・チャゼル(『ラ・ラ・ランド』)

主演男優賞
ケイシー・アフレック(『マンチェスター・バイ・ザ・シー』)

主演女優賞
エマ・ストーン(『ラ・ラ・ランド』)

助演男優賞
マハーシャラ・アリ(『ムーンライト』)

助演女優賞
ヴィオラ・デイヴィス(『フェンス』)

脚本賞
ケネス・ロナーガン(『マンチェスター・バイ・ザ・シー』)

脚色賞
バリー・ジェンキンズ、タレル・アリヴィン・マクレイニー(『ムーンライト』)

撮影賞
リヌス・サンドグレン(『ラ・ラ・ランド』)

美術賞
デヴィッド・ワスコ、サンディ・レイノルズ・ワスコ(『ラ・ラ・ランド』)

音響編集賞
シルバン・ベルマーク(『メッセージ』)

録音賞
ケヴィン・オコネル、アンディ・ライト、ロバート・マッケンジー、ピーターグレイ(『ハクソー・リッジ』)

編集賞
ジョン・ギルバート(『ハクソー・リッジ』)

視覚効果賞
『ジャングル・ブック』

歌曲賞
「City of Stars」(『ラ・ラ・ランド』)

作曲賞
ジャスティン・ハーウィッツ(『ラ・ラ・ランド』)

衣裳デザイン賞
コリーン・アトウッド(『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』

メイク・ヘアスタイリング賞
『スーサイド・スクワッド』

外国語映画賞
『セールスマン』(イラン)

長編アニメ映画賞
『ズートピア』

短編アニメ映画賞
『ひな鳥の冒険』

短編実写映画賞
『Sing(原題)』

長編ドキュメンタリー賞
『O.J.: Made in America(原題)』

短編ドキュメンタリー賞
『ホワイト・ヘルメット−シリアの民間防衛隊―』

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