映像美だけじゃない! RADWIMPSの音楽で加速する『君の名は。』の世界観

#君の名は。#映画を聴く

『君の名は。』
(C)2016「君の名は。」製作委員会
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(…前編「1年以上に渡る緻密な共同作業! 新海誠監督とRADWIMPSの見事なコラボ」より続く)

【映画を聴く】『君の名は。』後編
劇中曲も器用に作るバンドとしての力量

「ロックバンドがサントラ?」と不思議に思う人がいるかもしれない。一般的にサウンドトラックといえば物語を引き立てる歌のないインストゥルメンタル曲が中心で、それをロックバンドが手がけるというケースは日本ではほとんど聞かない。しかし本作でのRADWIMPSは、「夢灯籠」「前前前世」「スパークル」「なんでもないや」という通常のバンドスタイルによる4曲の歌もののほか、ピアノを中心とした室内楽や弦楽曲、ジャズ〜フュージョンなど、実に多彩なインスト曲を提供している。

これらのインスト曲は、一聴するだけではRADWIMPSの楽曲とは思えないほど映像に寄り添ったものだが、そのサウンドにはフロントマンでありソングライターである野田洋次郎のソロプロジェクト、illionなどで得られた成果が確かにフィードバックされている。また、メンバーが音大でジャズを学んでいたこと、野田もギターのほかベースやピアノ、ドラムなどを自在に弾きこなすマルチプレーヤーであることを考えれば、バンドとしてサントラに取り組むのは特に難儀ではなかったはずだ。その音楽はいい意味で器用に、それでいてほのかに作家性を匂わせながら、新海誠ワールドに融和している。

そのいっぽう、4曲の歌ものではRADWIMPSらしさが全開。映像をぐいぐい引っ張っていくテンションの高さ、世界観の大きさをこれでもかと感じさせる。特に、都会で暮らす男子高校生と山奥の田舎町で暮らす女子高校生の魂の交感を真っ直ぐに描いた物語を4分44秒のポップソングに昇華した「前前前世」は、見る者と本作の距離をさらに縮める触媒のような存在。見終えた後にも深い余韻を残す名曲だ。

この『君の名は。』で、いよいよメジャーフィールドに進出した感のある新海誠監督。次作以降もその映像美が突き詰められていくことは間違いないだろうが、どんな音楽家とタッグを組むのかにもこれから注目していきたい。(文:伊藤隆剛/ライター)

『君の名は。』は8月26日より公開中。

伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。