スターとの恋に揺れる女性を通して描かれる、孤独、繋がり

#多部未華子#岩田剛典#空に住む#週末シネマ#青山真治

空に住む
『空に住む』
(C)2020 HIGH BROW CINEMA
空に住む
空に住む
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タワーマンションに引っ越してきた28歳の女性編集者が、同じマンションに住む人気俳優と出会う。猫と暮らす彼女は事故で両親を亡くしたばかり。ふた昔くらい前のテレビドラマかと思うような設定だが、そこからこんな世界が紡ぎ出されるのか、という面白さを『空に住む』に感じる。

・[動画]映画『空に住む』主題歌「空に住む ~Living in your sky~」歌詞付きロングトレーラー

菅田将暉主演の『共喰い』(13年)以来、7年ぶりの青山真治監督の新作は、EXILEや「三代目」J SOUL BROTHERES from EXILE TRIBEや小泉今日子、久保田利伸など様々なアーティストの楽曲で作詞を手がける小竹正人の同名小説の映画化で、青山は池田千尋(『クリーピー~偽りの隣人~』『Red』)と共同で脚本も執筆している。

小さな出版社で文芸書を編集している直実(多部未華子)は、両親との突然の死別をきっかけに、叔父夫婦の世話で都内にあるタワーマンションの高層階で暮らし始める。窓の外に広がる大都会の光景を見下ろすのは、空に住んでいるような感覚だ。

叔父夫婦や職場の同僚たちの気遣いを意識しつつ、人前でも一人きりの時でも涙を流すこともなく淡々と日々を送っていた直実はある日、マンションのエレベーターで若い男性と乗り合わせる。初めて口を聞くタイミングでも臆さず距離を詰めてくるその男は、マンションの部屋から見えるビルボードにも登場している大スター、時戸森則(岩田剛典)だった。

あっという間に親しくなっていく2人は “一般女性とスターの恋”を無意識に演じるようでいて、型を模倣するでもなく、行動も会話もひとつひとつ定番の裏を縫っていくような面白さだ。人気俳優という生きものはプライベートでも演じるのかと思うくらい、時戸は本心が見えない時もあれば、ふと溢す言葉には物事の核心をつく深みがある。

スターの強引な気まぐれを魅力的に醸し出す岩田と、嘘と真実が共存する彼の言動に振り回されそうな直実の揺れを演じる多部が見せるのは、ありそうでいてあまり見たことのない関係性。のめり込みすぎず、2人とも互いを見つめながら、その向こうに広がる風景も見ているかのようだ。

鷹揚な叔父(鶴見辰吾)、先輩編集者(高橋洋)、マンションの老コンシェルジュ(柄本明)、かつて担当していた人気作家(大森南朋)と直実との交流の付かず離れず感と、出産と結婚を間近に控えた訳ありの後輩編集者(岸井ゆきの)、姉と呼べるほど歳が近くてやたら世話好きな叔母(美村里江)の強烈な存在感、そして、人見知りで来客中は隠れて姿を見せない長年の相棒、黒猫のハル。直実と彼らの物語は静かに進み、別れについて、生きていくことの孤独について、関わるものとの繋がりについても触れながら、ところどころでハッとさせる。

呪っているように思える言葉が慰めにもなる。一期一会であって、永遠でもある。おそらくこの映画を撮影していた頃と、今年の世界は大きく変わっているはずだが、不安や悲しみが大きく影を落とす今こそ、この映画が果たす役割は大きい。(文:冨永由紀/映画ライター)

『空に住む』は、2020年10月23日より公開中