AV出演で人生が壊されてしまった知り合いも
【日本映画界の問題点を探る/番外編/AV新法に込めた思い 1】2022年6月23日に施行されて以降、さまざまな反響を呼んでいる「性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律(AV出演被害防止・救済法)」。賛否両論が渦巻くなか、その成立に奔走した1人が立憲民主党の塩村あやか参議院議員だ。彼女は、これまで何の法律もなかったことのほうが問題だったのではないだろうか、と話す。
・【日本映画界の問題点を探る】性的シーンで震える生身の俳優たち、守るための取り組みは始まったばかり
「本法は、意に添わない出演をしてしまう方を生み出さないようにするだけでなく、被害に遭った方々を救済するためにも必要な法律ということで作られました。いままでは契約に関してきちんとした決まりがなかったので、驚くことに撮影当日に契約をする場合もあれば、契約を結ばないまま撮影に入ることもあったとか。それが本法では『契約から1ヵ月は撮影してはいけない』となっているので、しっかりと考える時間を持てますし、撮影を終えても公表できるのは撮影から4ヵ月後。その期間であれば、公表も販売も取り消しができます。また、公表から1年間は無条件に契約を解除することも可能。つまり、メーカーなどの公表者もより慎重に出演者の意思確認を行うようになります。受け取った報酬は返金してもらいますが、違約金などは発生しない条件になっています。これらが法案の大きな特徴です」
長年にわたって“無法地帯状態”が続いていたわけだが、業界の状況が大きく変わったのは、AV出演強要が社会的な問題となった2016年頃。その翌年からは、法律の専門家などをはじめとする第三者によって構成されたAV人権倫理機構が提唱する「適正AV」のルールに従い、女優の自己決定権や人権に配慮する意識は高まっていた。とはいえ、法律ではないため、その枠から外れた人たちの間で問題が起きることもあったという。
「以前よりAV出演で被害に遭った方々の支援をしている弁護士さんからいろんなお話を聞いてはいましたが、成年年齢が18歳に引き下げられることにより、AV出演被害の唯一の対抗手段であった「未成年者取消権」が行使できなくなる問題について今年の2月に改めて相談がありました。被害実態を支援団体の調査やデータから知り、深刻であると認識しました。
かつて同じような危機感を抱いた経験があったことを思い出した塩村は、一緒に行動を起こすことを決意する。
「私は過去に芸能活動をしていたことがありますが、当時の知り合いのなかにも似たような被害に遭った人が何人かいて、人生が壊されてしまったのを目の当たりにしたこともありました。そういったこともあって、いまこそ守るべきものは守らなければいけないのではないかと思うように。相当な抵抗を受けることも覚悟したうえで、取り組むことに決めました」
決して簡単なことではないと想定はしていたものの、まずは国会での反応に愕然としてしまったと振り返る。
「政府に対して、『未成年者取消権が無くなってしまったら、誰も救えなくなりますよ』といった内容の質問を提出しましたが、最初に返ってきたのは、『現状のままいきます』という心ない返事だけ。その状況に驚いていたところ、弁護士ドットコムというサイトから連絡が来たので『とんでもないことです』という話をしたら、それがそのまま記事になり、Twitterで何千もリツイートされるほど大きな反響となりました。すでに現役女子高生のAVデビュー予定を謳ったアダルトビデオに関する情報が出始めていましたが、その出来事がきっかけとなって政府もようやく直前で深刻さに気が付いてくれたのだと思います。国会でも議論しましたが、そのときも多くの方に支持をしていただきました」【2「性暴力被害においては、たとえ一件でも多すぎる」党派を超えた思いが結実(2022年11月26日掲載予定)】に続く(text:志村昌美/photo:今井裕治)
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