『ベイビーズ ―いのちのちから―』トマス・バルメス監督インタビュー

赤ちゃんたちの1年間を追った異色ドキュメンタリーについて聞いた

#トマス・バルメス

誰もが、小さな奇跡の体験を味わうことができる

2009年の4月──アメリカ、アフリカナミビア、モンゴル、日本で生まれた4人の赤ちゃんの1年間を追ったドキュメンタリー映画『ベイビーズ ―いのちのちから―』が、子どもの日の5月5日から公開される。

人間にとって、生まれて最初の1年間ほど急激に変化する時期はない。生まれた直後のフニャフニャとした状態からぐんぐん成長し、いつのまにか首がすわり、寝返りやハイハイをするようになって、ついには歩き始めるのだ。

そんなミラクルな成長ぶりを追った本作を作り上げたトマス・バルメス監督に話を聞いた。

──なぜ本作を作ることになったのですか?

監督:私にとってこの映画は、過去20年間にわたって作ってきた映画の延長でしかありません。「視点を変えることで常識を覆す」ということへの挑戦なんです。本作は、4人の赤ちゃんが育っていく様子をナレーションもセリフもなく対比させることで、私たちに考えることの余地をたくさん残してくれます。
今、ほとんどの映画が単なる消費財となり、脳に刺激を与えるだけで何も考えずに楽しめるように単純化され、コントロールされています。なので、映像を見ながら考えることが段々不可能になっています。でもこの映画は、誰もが通ってきた時間を描くことで、自分の体験と映画とを結びつけながら、小さな奇跡の新たな体験を味わうことができるのです。

──この映画で描きたかったのはどんなことでしょうか。

監督:この映画で問いたかったことのひとつは、欧米諸国による物質主義環境への依存と、アフリカやモンゴルの家族が、この物質主義環境の欠如について一体どれくらい体感しているのだろうということでした。

これまでに撮った作品のなかでも最も風変わりな作品



──アメリカ、アフリカ、モンゴル、日本の4つの地域を選んだのはなぜですか?

監督:特別な理由はありません。私は、多様性を映し出せるような家族を探し、様々な場所でたくさんの家族と会いました。そうして選んだ家族は、生活環境はまったく違いますが、どの家族も各地域においては一般的で、愛情あふれる幸せな家族です。

──この映画を作る上で最も印象的だったことは?

監督:私は、赤ちゃんが様々な国や地域の生活環境の違いを体現しているということに興味をもちました。テクノロジー、近代性、そして洗練度など、改めて西洋の生活様式を見直すこともできます。かなり原始的な暮らしのアフリカと、ハイテクな国・日本の赤ちゃんの姿を比較してみるのはとても面白いですね。

──『ベイビーズ』の見どころについて教えてください。

監督:この映画を作ることは、風変わりな体験でした。製作会社フォーカス・フィーチャーズのCEOであるジェームズは、会う度に「この映画はうちの配給作のなかで最も風変わりな映画だ」と言っていました。もちろん、私がこれまでに撮った作品のなかでも最も風変わりな作品です。

トマス・バルメス
トマス・バルメス
Thomas Balmes

インディペンデントの監督として、世界各地でドキュメンタリー映画を制作。主な作品は『Le dernier des Papous(原題)』『A Decent Factory(原題)』など。プロデューサーとしても活躍し、09年にはNHKのドキュメンタリー番組『東京モダン』の海外プロデューサーをつとめた。

トマス・バルメス
ベイビーズ ―いのちのちから―
2012年5月5日より新宿ピカデリーほかにて全国公開
[原案]アラン・シャバ
[監督]トマス・バルメス
[原題]BEBE(S)
[英題]BABIES
[DATA]2010年/フランス/エスパース・サロウ/79分
(C) 2010 Chez Wam/Thomas Balmes