『はるヲうるひと』仲里依紗インタビュー

「だってショックじゃないですか、嘘をつかれたら」ファンキー女優の素顔に迫る

#はるヲうるひと#仲里依紗

仲里依紗

深く考え出したら、たぶん病むような作品

『はるヲうるひと』
2021年6月4日より全国公開
(C)2020「はるヲうるひと」製作委員会

昨春に公式YouTubeチャンネルを開設し、週2本配信する動画で飾らない素顔をアップし続けている仲里依紗。ファンキーなスタイルのファッション・アイコンとしても知られる彼女は、役者になるとガラリと違う表情を見せる。

佐藤二朗が原作・脚本・監督を務め、自ら出演もする『はるヲうるひと』で、仲が演じるのは、架空の島で遊女の置屋を営む哲雄(佐藤)の異母妹・いぶき。哲雄の暴力で支配される置屋の中でただ1人、病弱で“箱入り娘”として育てられてきた女性だ。

ふきだまりのような場所にいながら、彼女だけまるで違う世界が見えているような、謎と孤独に包まれたヒロインをどう演じたか、チャンネル登録者数128万人を超えるYouTubeでの発信についてなど、率直に語ってくれた。

佐藤二朗が監督、海外映画祭でも高評価!『はるヲうるひと』予告編

──こんなに、内に閉じた感じの仲里依紗さんを初めて見たという印象でした。

:ほんとですか。

──はい。まず、この作品のお話が来た時にどう思われたかをお聞きしたいです。

:役者をやられている佐藤さんが、私がいいと言ってくださったのがすごくうれしかったです。役者さんが監督する作品に出演するのは初めてだったので、そこに呼んでもらえるのも、その重要な役に私を選んでくださったのが、ほんとにうれしかったです。

──かなり重いストーリーですが、脚本を読んだ感想はいかがでしたか?
仲里依紗

:すごく不思議な雰囲気の世界観だし、いろんな人の感情が渦巻いている作品だと思いました。言葉じゃ言い表せないような「うっ」とくるような感情になる。文字で見ているこの内容が、どういうふうになるのか?と台本を見て思いましたね。

──台本を読むとき、自分でその情景を思い浮かべたり、自分ならこう演じる、と考えたりしながら読んでいくのでしょうか?

:いや、そんなに深くは考えないです。いろいろ考えて読んだとしても、やっぱり現場に行くと全然違う感じになるじゃないですか。「こういう場所で撮るんだ」とか。だから、ロケの現場に行ってから、というのが多いかな。

──いぶきというキャラクターについてはどう思われましたか。

:ちょっと地上から浮いてるみたいですよね。10センチぐらい。人と違う時空にいるような感じの子だなと思って。年齢的に体と心が追い付いてないというか、演じていて少しそういうのも感じました。

──ちょっと浮いてるような感じは、私も見ていてすごく感じました。浮いているようでいて、すごく重くもあって。ミステリアスです。

:そうですね。ミステリアスっていう言葉がしっくりくる感じですね、あの人は。

──そして、とても孤独に思えました。置き屋の遊女たちからも疎まれて、肉親である兄の得太(山田孝之)とも、どこか擦れ違っている感じがあります。

:きょうだいだけど、全然きょうだいじゃないような感じですよね。私自身はきょうだいの仲がいいから、全然感じが違うんですけど。得太といぶきはお互いの心に昔から傷があって、お兄ちゃんは保護者的な気持ちでいるけど、2人とも精神年齢がどこかで止まっているようでもあり。いろんな面を全て見せていなくて、お互いのことを知ってるようで全然知らないみたいな感じだから、不思議でした。

──いぶきという女性は、私たちが知っている仲さんのイメージとは大きく違うキャラクターでしたが、共感や共鳴した部分はありましたか?
仲里依紗

:うーん……正直、あんまりないです。共感? 同じ気持ち? 思うこと(しばらく考え込んでから)……ないですね。

──共感みたいなものは、演じるときに絶対に必要というわけではない?

:そうですね。「私じゃないので」という感じで演じているんです。そもそも自分自身のことをよく分かってないから(笑)。そこまで考え込んで役をやるよりも、その場の雰囲気で演じているので。特に今回は、すごい考えてやるような雰囲気の作品じゃなかったんです。深く考え出したら、たぶん病むような作品ですよね。

──確かに、その通りだと思います。ということは、仲さん自身が考えて考えて、ではなくて、監督である佐藤さんに任せるような感じですか?

:そうですね。この作品に限らず、いつもそうです。台本を読んで「ああ、こういう感じの役か」と思う。で、衣装はこれを着て、ヘアメイクはこうして、と決まっていって。その現場に行って、自分でセリフを言ってみて……というふうに作っているんです。役に対して、そんなに深く計算っぽい感じでやったことがなくて、感覚的な感じでやってしまうので。

──特にいぶきは、さっきも言いましたが、ミステリアスでしたし。

:そうですね。結構重くて、いろんな顔を持ってる人です。今日はこうだけど、それは明日には変わる。感情が定まらないっていうか。

──ラスト近くに見せる表情が素晴らしかったです。いぶきって、ほんとに読めない人物だと思わされました。

:ネタバレになるかもなので、多くは語れないんですけど(笑)。すごく印象的なシーンでした。天候も大事な要素なので、なかなかベストなタイミングが訪れなくて。空の色は変わりやすいですから、あれはみんな集中して作ったシーンでもあります。

演じるのは女優やってるときだけでもう十分

──佐藤さんとは役者として以前にも共演されていますが、今回、監督と俳優としてのお仕事はいかがでしたか?

:自分も役者だと、監督をやるときに、役者に指示するのも言いづらいんじゃないかなと思ったんですけど、ちゃんと監督でした。

──山田さんとはいかがでしたか?
はるヲうるひと

はるヲうるひと

:今回の現場ではしゃべってないです。敢えて山田さんがそうされていて。いつもは気さくにしゃべってくださる方とうかがったんですけど、今回はたぶん役に入ってらっしゃったのか。得太といぶきは、きょうだいといっても普通とは違う、ちょっと不思議な雰囲気なので。現場では一切会話はしてないです。

──いぶきの登場するシーンはどれも、和めるようなところが全然なかった気がします。

:女性たちは、一緒に和気あいあいとしゃべってましたけどね(笑)。

──仲さんもその輪に入って。

:はい、全然普通にしゃべってました。

──カメラが回り出したら、パッと切り替わる感じでしょうか。

:女性たちは、そうですね。結構切り替え早いですよね、女優さんはみんな。でも、「かげろう」の女性たちは劇中でも、それぞれ複雑な背景はありつつ、いぶき以外は和気あいあいとした雰囲気でしたよね。

──今回の作品を見ていて、すごいと思ったのは、毎日のようにSNS等で発信されている“仲里依紗” のポップなイメージが、いぶきというキャラクターを見せるうえでノイズにならない、ということです。普段の姿を完全に忘れさせて、『はるヲうるひと』の物語に集中させる力に感じ入ってしまいました。

:でも、演じる役は全然自分と違う人だし、その役をやってるだけなんです。「あたしじゃないから」と割り切っているというか。YouTubeは自分自身で、作品で演じるのは全く違う人。ただ、どっちも全力って感じですね。YouTubeでは本当の自分を出してます。

──怖くないですか? 自分を全部見せるというのは。

:私は嘘をつくのが嫌なんです。偽りの自分を演じるのが嫌。演じるのは女優やってるときだけでもう十分だし、ある意味、女優こそ嘘をついてるんだから。作った自分を見せるのが嫌だったんです。もうそれに飽き飽きしちゃって。SNSとかをうまく利用して、本当の自分をみんなに楽しんでもらおうと思ってアップしているだけなんです。
役者をやってるときは役のセリフしか言えないし、自分を出すなんて、それこそ駄目じゃないですか。でも、役だけじゃなくて、仲里依紗そのものを知ってほしかった。だから、ありのままを見せたかったんです。
今日みたいに、きれいにメイクして衣装を着て、というのばかりでは、みんな見飽きてるから、真逆なことをやりたかったし、見せたかった。私も、好きな女優さんのことを知りたいと思ったりするからですかね。だってショックじゃないですか、嘘をつかれたら。

──確かに。

:私はなるべく、そのままをお伝えしたい。生活するという意味では「みんなと一緒だよ」って。「芸能人だから、お手伝いさんがいて掃除とかしてないんでしょ」と思われるけど、普通に掃除してます(笑)。エコバッグ使って買い物に行くし、この前は忘れちゃってレジ袋を5円出して買って(笑)。その袋はゴミ袋に利用するし。みんなと同じ感覚を持っているということを発信したいんです。

──最後に再び作品の話に戻りますが、映画はコロナの影響で、当初の予定から1年以上経っての公開になりましたね。

:1年経ってみて「まだやっぱりこの世界だったんだ」というのは、正直あります。ちょっとずつ改善してきてはいますけど、まだまだじゃないですか。映画の中で「うそでも笑え」というセリフがありますけど、笑うって一番大事だなって。笑ってれば、どうにかなるよなって思うんです。こういう作品を見たりしながら、生きづらい世の中でも笑ってれば、自分のメンタルをキープできるんじゃないかなって。世の中は今、もう一踏ん張りだなって思うので。

──確かにあの「笑え」というセリフは、撮影した時とは別の、もう一つの意味が加わったように思います。

:そうですね、このご時世になって。撮っている時には、こんなことになるとは思ってなかったから。いろいろな意味がいっぱい、後で増えたな、とは思います。
だから背中を押してくれるような作品になればいいなと願ってます。映画館になかなか行けなかった人が「この作品見たいな。映画館に行こうかな」と思ってもらえたらうれしいですね。

(text:冨永由紀/photo:小川拓洋)

仲里依紗
仲里依紗
なか・りいさ

1989年10月18日生まれ、長崎県出身。2006年、アニメ映画『時をかける少女』で主人公の声を担当。2008年、『純喫茶磯辺』で第30回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞、第63回毎日映画コンクール・スポニチグランプリ新人賞を受賞。2010年、実写版『時をかける少女』に主演し、同作と『ゼブラーマン−ゼブラシティの逆襲−』(10)で第34回日本アカデミー賞新人俳優賞、第23回日刊スポーツ映画大賞最優秀新人女優賞、第20回東京スポーツ映画大賞最優秀主演女優賞を受賞。『時をかける少女』で第25回高崎映画祭最優秀主演女優賞を受賞。映画やドラマ、CMなど幅広く出演し、ファッション誌ではモデルとして活躍。昨年4月に開設した公式YouTubeチャンネル「仲里依紗です。」はチャンネル登録者数128万人を超える。