【週末シネマ】思わず惚れ込む瞳の魅力、若手注目株エズラ・ミラーのナイーブ演技は必見

『アナザー・ハッピー・デイ ふぞろいな家族たち』
(C) 2011 DIMS Film, LLC. All Rights Reserved.
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『アナザー・ハッピー・デイ ふぞろいな家族たち』

家族や親戚だから遠慮はいらぬと無遠慮にふるまい、相手を傷つけても平気で、そのくせ自分を理解して愛してほしいと願う。そんな濃厚でどこか滑稽でもある関係を、どっぷり感傷的になることもなく、シニカル過ぎることもなく、ほどよい距離感で描いた秀作が『アナザー・ハッピー・デイ ふぞろいな家族たち』だ。

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物語は、中年の母親リンが2人の息子(ティーンエイジャーのエリオットと幼いベン)を連れて、久々に実家を訪ねるところから始まる。前夫との間の長男ディランの結婚式に出席するためだ。しかし、リンは激しく苛立っていた。もともと情緒不安定なうえ、長女アリスは自傷癖があり、エリオットはドラッグ中毒、ベンは軽度のアスペルガー症候群と子どもたちの問題に手を焼いているうえ、実母や姉妹は何かとうるさい。さらに、前夫ポールと現在の妻パティに会というストレスが、リンの心を爆発寸前に追い込んでいるのだった。

実際のところ、リン自身が問題を大きくしているのだが、彼女は自分をとても憐れだと感じている。ああ、こういう人いるなあ。こんな人が身近にいたらイライラさせられるに違いないのに、不思議と嫌な気分にならなかったのは、リンを演じたエレン・バーキンの自然体な演技のおかげだ。バーキンは本作の構想に惚れ込み、プロデューサー役も買って出ているので、この神経衰弱気味な母親役をすっかり自分のものにしているのだろう。

そして、リンに対抗する面々として、娘の元夫に愛想よくふるまう母ドリスを大ベテランのエレン・バースティンが、元夫の現在の妻でお色気全開のパティをデミ・ムーアが演じているのもいい。実力ある役者たちだからこそ、役の表面的な態度の背後にあるそれぞれの物語を感じさせてくれる。

個性の強いアンサンブルキャストを見事にまとめあげ、親戚間の生々しい関係を描ききったのは、本作が監督デビュー作となるサム・レヴィンソン監督だ。撮影当時26歳という年齢のせいもあるのか、年配世代にも若者世代にも特に肩入れせずに中立な立場から眺めており、また、その視点が皮肉ではなく、温かなものが感じられるのがよい。ちょっとした仲直りのチャンスをあっさりとふいにしたり、何気ない一言で傷つけたりといった、些細だけれど重要な出来事を丁寧に描いているのもよい。惜しむらくは、リンと現在の夫リーの関係が深く描かれていなかったことだ。リンは優しい旦那がいながら、なぜいまだに悲劇のヒロインになりきっているのだろう?

それはさておき、下手をすると人間関係の説明に終始して味気ないドタバタ劇に陥りがちな本作を魅力ある作品に引き上げたのは、先述の実力派キャスト陣に加えて、エリオットを演じた新進俳優エズラ・ミラーの存在が大きい。資料によると、当初、監督はエリオットを20歳くらいに設定していたそうだが、エズラを起用したことで17歳に変更したという。これは正解だ。エリオットが20歳なら親不孝のバカな息子だとあきれるばかりだが、大人になりきれていない年齢に設定したことで、バカ息子にもナイーブな内面を見ることができる。そして、なんといっても、エズラの瞳が魅力的だ。本質を見抜いていそうな瞳。想像なのだが、監督もエズラの瞳に惚れたから、エリオットの視点で物語をスタートさせ、終わらせようとしたのではないだろうか。

プロデューサーと魅力ある役者に恵まれて才能を存分に発揮することができたレヴィンソン監督の次回作が楽しみだ。(フリーライター・秋山恵子)

『アナザー・ハッピー・デイ ふぞろいな家族たち』は12月1日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開される。

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