映画化まで14年かかったのは“妻”のせい? 多くの女性が共感必至の作品とは?

#天才作家の妻#週末シネマ

『天才作家の妻 -40年目の真実-』
(C)META FILM LONDON LIMITED 2017
『天才作家の妻 -40年目の真実-』
(C)META FILM LONDON LIMITED 2017

【週末シネマ】『天才作家の妻 -40年目の真実-』
悲しみや静かな怒り、諦めを秘めた演技が秀逸!

2月発表の第91回アカデミー賞主演女優賞の最有力候補と目されるグレン・クローズ。対象作がこの『天才作家の妻 -40年目の真実-』だ。

物語は、世界的作家のジョゼフ・キャッスルマンのもとにノーベル文学賞受賞の一報が届くところから始まる。長年彼を支えてきた妻のジョーン、そして駆け出しの作家である息子と共に授賞式開催地のストックホルムに一家は赴く。だが、目的地に向かう機中から彼らを追う記者、ナサニエル・ボーンがいた。彼は以前からジョゼフの来歴に疑念を抱いていた。

若い女性に走る中年男性のエゴについて激白!/『天才作家の妻 』グレン・クローズ インタビュー

執拗に食い下がるナサニエルの存在によって、ジョーンと夫の関係や隠された秘密が次第に明かされていく。そして、ジョーンが自身とその歩みに向き合うことで、このうえない栄誉を授かる喜びに包まれるはずの夫婦の関係は大きく揺らぎ始める。

ジョーンとジョゼフの、長年連れ添った夫婦ならではの気取らない関係はユーモラスですらある。ジョゼフを演じるジョナサン・プライスは、大作家の子どものような一面や狡さにリアリティがあり、クローズとの相性は抜群だ。

だが、受賞の知らせを受けた時からジョーンの心に去来するイメージ――1950年代のジョーンとジョゼフの出会い、才能に恵まれ若かった彼女が、“妻”になることで自ら下した決断とそこから続いた日々――は澄んだ水の中に少しずつ堆積していく砂を見ているようだ。プライドを呑み込むようにして、夫を支える役目に徹した若き日のジョーンを演じるのはクローズの実の娘であるアニー・スタークだ。

メグ・ウォリッツァーの原作小説通りの原題は「The Wife」。“妻”というたった1語だ。1月に本作でゴールデン・グローブ賞ドラマ部門主演女優賞を受賞したクローズは「映画化実現まで14年もかかったのは、このタイトルのせいだと思う」とジョーク混じりの本音を語った。彼女がこれまで演じてきたのは、自分の正義を信じて疑わない、恐ろしいほどに強い女性たちだ。映画初出演作の『ガープの世界』や『危険な情事』、『危険な関係』、『運命の逆転』、クルエラ・デ・ヴィルを演じた『101』『102』も、2007年から主演を務めたTVシリーズ『ダメージ』も、ドラマでもコメディでもサスペンスでもジャンルは問わず、だ。

そうしたアグレッシブな女性像とは違い、一歩下がって夫を立てているジョーンを演じるクローズのきめ細かい表現は素晴らしい。笑顔1つ取っても、そこにかすかににじませる悲しみや静かな怒り、諦めが伝わってくる。演じながら、クローズが思い出したのは彼女の母親だったという。80代を迎えた母親が「私は何も成し遂げた気がしない」と語った言葉が、今作におけるクローズの原動力になっている。

これまで助演賞を合わせて6回オスカーにノミネートされたが、受賞は叶わなかった。4度目の主演女優賞候補となった今年は、レディー・ガガ(『アリー/スター誕生』)やオリヴィア・コールマン(『女王陛下のお気に入り』)など強豪ぞろいだが、多くの女性が自己投影し、共感するのは“天才作家の妻”だろう。(文:冨永由紀/映画ライター)

『天才作家の妻 -40年目の真実-』は1月26日より全国公開。

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。

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