『誰もがそれを知っている』ハビエル・バルデム インタビュー

妻、ペネロペの才能を絶賛! 夫婦共演について明かす

#ハビエム・バルデム

ペネロペは新しい役を演じるたびに成長する。花開く彼女を見るのはとても嬉しい

ペネロペ・クルスとハビエル・バルデムのスター俳優夫婦が主演し、心理サスペンスに定評のあるイランの名匠、アスガー・ファルハディが監督した『誰もがそれを知っている』。共にオスカー受賞者の3人がタッグを組んだ本作が、6月1日より公開される。

妹の結婚式のため、2人の子を連れて帰郷した女性。だが、幸せな結婚パーティの最中に娘の誘拐事件が発生。それを皮切りに、平穏だった家族の秘密が露わになっていく……。

ある秘密を抱えた男性を演じたハビエル・バルデムに話を聞いた。

──『彼女が消えた浜辺』でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞し、『別離』と『セールスマン』でアカデミー賞外国語映画賞を受賞したアスガー・ファルハディが監督し、あなた方の夫婦共演でも話題になっていますが、なぜこの映画に参加することになったのですか?

『誰もがそれを知っている』
(C)2018 MEMENTO FILMS PRODUCTION - MORENA FILMS SL - LUCKY RED - FRANCE 3 CINÉMA - UNTITLED FILMS A.I.E.

バルデム:記憶が正しければ、確か2013年か2014年にロサンゼルスでアスガー・ファルハディ監督と出会った。彼は映画のプロモーション、僕も仕事でロサンゼルスにいたんだ。僕は緊張しながらも待ちきれない気持ちで会合に臨んだよ。彼は誰よりも優れた芸術家だからね。彼の作品同様、僕は彼に引きつけられるんだ。僕らはできる範囲で英語を使って一緒に仕事をする話をした。その数ヵ月後、僕は次の映画の脚本を受け取り、それ以来お互い連絡を取り続けた。

──脚本を読んだ第一印象はどうでしたか?

バルデム:監督はアイデアから構想、脚本までを手がけていて、全部で20〜30ページあった。そこにすごく詳細なあらすじが添えてあったんだ。せりふがない台本のような感じだ。僕は物語がすごく気に入った。物語の雰囲気や特にキャラクター同士の関係がね。
 彼のそれまでの映画と同様、この作品も人間関係やそれによる影響について扱った映画だ。そして過去が表面化することで現在の生活に衝撃を与える話だ。スペインの風習が正確に描写された映画でもある。映画を作ったのはスペイン人ではないのに素晴らしいことだ。

──キャラクターに真実味を持たせるためにどのように監督と撮影を進めたのですか?

『誰もがそれを知っている』
(C)2018 MEMENTO FILMS PRODUCTION - MORENA FILMS SL - LUCKY RED - FRANCE 3 CINÉMA - UNTITLED FILMS A.I.E.

バルデム:脚本を完成してからキャラクターやリハーサルについて話し始めた。彼と会って話を聞くのがとても楽しみだった。彼が役者たちを導き作品を作る手法は天才的だ。役者にとって彼と仕事をすることは喜びなんだ。彼自身演じることが好きで演技というものを理解して問題を分かってくれるし、役者に敬意を持ち思いやりを示してくれるからだ。
 リハーサルの時、彼は役者たちに彩りと輝きをもたせる才能があることに気づいた。この映画は、自分が尊敬する人たちや、以前にも共演したことがある人たちと一緒に仕事ができる機会でもあった。リカルド・ダリンとは初めて一緒に仕事をするが、彼は世界で最も才能ある俳優の1人だと思っている。
 皆と集まってどのように監督が各キャラクターを描写したかを聞いた。そしてキャラクターを特徴づける詳細部分に集中するよう指示を受けた。これは本当に素晴らしい経験だった。リハーサルには2〜3週間かけた。監督がもっと時間を取りたいことは分かっていたが、多くの役者が他の仕事も抱えていた。

──あなたが演じたパコというキャラクターについて教えてください。故郷でワイン業を営み、奥様のペネロペ・クルスさん演じるラウラの幼なじみで元恋人でもあったらしき人物という設定ですね。

バルデム:彼は村で暮らす男だ。都市に出て行けるとしても、村で暮らすだろう。彼は苦労して今の生活を手に入れた。彼はラウラの家族が暮らす家で生まれ、少しずつ土地を耕しブドウ畑の世話をするようになる。映画の冒頭で、彼は公私ともに充実していると感じている。だがあることが起こり、あらゆる負担が彼にかかる。心理的、感情的、肉体的、倫理的にも。そして彼の生活は変わってしまう。突然、彼の過去が姿を現し、現在と衝突する。パコは陰影に満ちたキャラクターとして描かれていて、僕の演技でもそれが表現できたと思っている。

──パコ役には共感しましたか?

『誰もがそれを知っている』撮影中の様子

バルデム:彼のことがすごく好きだよ。偉大なビクトリ・アブリル(スペインの女優)が言ったように、役者は自分のキャラクターを評価するのではなく、守らないといけない。そうでなければ役者ではない。そうは言っても、時には不愉快になるキャラクターもある。でも今回は違う。
『海を飛ぶ夢』のラモン・サンペドロや『夜になるまえに』のレイナルド・アレナスと同じだ。僕の好きなキャラクターたちで、パコもその1人だ。彼には何か光るもの、輝きがあり、ある種の賢さに通じる実直さがある。彼は気取らない良識的な男だ。

──ペネロペ・クルスと共演した感想は?

バルデム:ペネロペとは“Escobar(英題:Loving Pablo)”でも共演し、2人とも互いに依存し合う強烈なキャラクターを演じた。一緒のシーンが多くとても入り組んでいたが、本作はもっと単純だった。ペネロペは新しい役を演じるたびに成長する女優だ。同じ現場で花開く彼女を見るのはとても嬉しい。お互いをよく知っているから仕事がしやすいし、それが大きな助けになっている。

──一番好きなシーンと一番難しかったシーンを教えてください。

バルデム:これはすごく複雑な映画だが、それはどの映画にも言えることだ。この映画では、物語の主題が緊張感を生み出している。どのシーンも簡単ではなかった。監督があるシーンを提案し、うまく撮れたかを確認して他のことを試そうとか強調しようと思うと、細かな部分の変更が行われた。確定していることなど何もなかったし、彼は一度も「求めていたのはそれだ」とは言わなかったね。また、監督は人生を愛し、全てのシーンに真実味を持たせることを求めた。
 振り返ってみると、大人数での撮影が一番難しかったかな。たくさんの役者がいて、皆自分なりの演じ方があった。例えば怒りの感情を表現する場合でも、様々な表現方法があった。最終的にそれを調和させるのは監督の仕事だが、役者にとってもかなりの集中力が必要となる。他の役者にも注意を払う必要があるがそれが10人にもなれば、まず自分の集中力を失わないことが大事だ。

ハビエム・バルデム
ハビエム・バルデム
Javier Bardem

1969年3月1日生まれ、スペイン出身。芸能一家に生まれ、子役としても活躍。英語作品に初主演した『夜になるまえに』(00年)でヴェネチア国際映画祭男優賞を受賞、アカデミー賞主演男優賞にノミネートされ注目を集める。コーエン兄弟監督『ノーカントリー』(07年)ではスペイン人俳優として初となるゴールデングローブ賞助演男優賞、アカデミー賞助演男優賞に輝いた。『007/スカイフォール』(12年)や『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』(17年)などの大作にも出演。その他の出演作に、ヴェネチア国際映画祭男優賞を受賞した『海を飛ぶ夢』(04年)、『BIUTIFUL ビューティフル』(10年)など。