『ふたつの昨日と僕の未来』佐野岳インタビュー

ネクストブレイク俳優がいまを語る!

#佐野岳

自分のやりたいことと現状をしっかり見極めて、進んでいきたいと思えた年でした

愛媛県新居浜市市政80周年記念作品として、新居浜市でオールロケを行った映画『ふたつの昨日と僕の未来』。物語の主人公はオリンピックを目指していたものの、怪我により競技を断念し、現状は市役所に勤め青年・海斗。彼にはある出来事によって、まったく違う二つの人生が待ち受ける――。

ファンタジックで不可思議な物語の主演を務めるのは、若手売り出し中の俳優・佐野岳だ。近年出演作が続く佐野が、本作への思いや主演として挑んだ意気込みなどを語った。

──台本を読んでどんな印象を持ちましたか?

佐野岳

佐野:最初は、ファンタジーで主人公の成長物語、しかもパラレルワールドってどういうこと?みたいな印象があったのですが、伏線もいろいろなところに張られていて、ここまで壮大に人間物語をファンタジーで描けるのがすごいなと思いました。あとは僕が演じた海斗という人物が、自分とリンクする部分が多く、等身大で演じられるかなと感じました。

──ご自身とリンクするというのはどんな部分ですか?

佐野:海斗はケガによってスポーツを断念しますが、僕もサッカーをやっていて、ケガで大会に出られなくなった経験がありました。そのとき勝手に自暴自棄になったりしていたので、海斗の気持ちは少なからず理解する事ができました。その後、僕は芸能界に入りましたが、役者は正解がない仕事なので、どうやっていろいろなことを受け入れながら進んでいけばいいのか、いつも悩んでいます。そういう部分も海斗に近いなと感じています。

──大森研一監督が、現場での佐野さんの立ち振る舞いに称賛を送っていましたが、主演としてどんな意気込みで臨まれたのでしょうか?

佐野岳

佐野:スクリーンには現場の空気感が映るものだと思っていたので、スタッフさんや共演者の方々の熱が届けばいいなという気持ちで臨みました。皆さんに助けられながら真ん中に立たせてもらっているという思いを忘れず、現場ではしっかり挨拶をするなど当たり前のことから率先して、エキストラの方々にも感謝しつつ、盛り上げようという気持ちでいました。

──今回は、パラレルワールドが存在するという設定。一人の人物で、まったく違う人生を演じるという部分では難しさがあると思うのですが、佐野さんは役に対してどんなアプローチ方法をとるのですが?

佐野:まったく自分の引き出しにない人物を演じることはとても不安なので、普段はなんとか自分のなかにあるものに共通点を見出そうとしています。でも以前、映画(『報復〜かえし〜』)で殺人犯の役を演じたときは、さすがに共通点がなかったので、裁判所に行って犯罪者の記録を読んだり、現場では他の共演者と距離をとらせてもらったりと、しっかりと時間をかけて役に臨みました。ただあまり距離を置きすぎると、独りよがりな芝居になってしまう部分も見受けられたりしたので、なかなか難しいなと感じました。

──ドラマ『陸王』でも竹内涼真さん演じる茂木裕人とバチバチのライバル関係にある毛塚直之を演じましたね。

『ふたつの昨日と僕の未来』
(C)2018『ふたつの昨日と僕の未来』製作委員会

佐野:『陸王』に関しては、そこまで現場で距離をとるようなことはしていませんでした。それよりは「健康で文化的な最低限度の生活」というドラマで、父親から性的虐待を受けてPTSDになってしまう男の役を演じた時は、父親役の小市慢太郎さんとはずっと距離を置いていました。現場でもものすごく怖い印象があったんです。でもそのあと別の作品で小市さんとお会いしたとき、すごく優しく話しかけてくださってその雰囲気の変化はすごいなと……。なので、いまはいろいろなアプローチ方法を試行錯誤しながらやっています。

──この作品ではどんなことを得られましたか?

佐野:主演を務めさせていただく機会はなかなか少ないので、とても貴重な経験でした。役について積極的に監督とお話して、提案したものが受け入れてもらえるのは嬉しかったです。また、みんなが熱い思いで作った作品を背負うのは決して軽くないので、しっかりと多くの人に見てもらえるように、主演として先頭に立ってPR活動を頑張らなければという責任感を感じることができています。

──2018年、映画やドラマの出演が続きましたが、どんな年でした。

佐野:芸能界に入って7年ぐらいが経ち、ようやく芝居の楽しさみたいなものを少しずつ感じるようになってきた時期なのですが、そこで公開映画が少なからず続いたことは幸せだなと感じています。同時に、芝居に対して欲が出てきたので、自分のやりたいことと現状をしっかり見極めて、進んでいきたいと思えた年でした。

──お芝居が楽しくなってきたのには理由があるのですか?

佐野:ここ1〜2年、事務所主催のワークショップに参加しているのですが、そこで学んだことを実践してオーディションに受かったりすると、すごく充実した気分になるんです。

──手応えを感じた作品はありますか?

佐野:さきほど話した『報復〜かえし〜』という映画で、殺人をおかして罪を背負う男の子の役を演じたのですが、そのとき自分のなかから絞り出してきたものが、現場で取り入れてもらえたのが嬉しかったです。もちろん「もっとこうした方がよかった」という反省点はたくさんあったのですが、しっかり役と向き合えた気がしました。

「佐野岳じゃなければ」と言われるような俳優になりたい
佐野岳
──来年もさらなる活躍が期待されますが、具体的な目標はありますか?

佐野:「佐野岳じゃなければできない」と言われるような俳優になりたいです。なかでも自分は身体も動くので、アクション映画をもっと極めていきたいです。いつ声をかけていただけてもいいように、乗馬や殺陣のトレーニングはしっかり行っています。

──本作ではパラレルワールドによって、まったく違う世界が描かれていますが、佐野さんにとってご自身の人生で分岐点になった出来事はありますか?

佐野:ずっと続けてきたサッカーを辞めたときですね。高校までプロを目指していたのですが、さすがに厳しいと思い大学に入ると同時に断念したんです。そこで雑誌のオーディションを受けたことがきっかけで、いまに繋がっています。もしサッカーを辞めていなかったら、どうなっていたんだろうと考えることはいまでもあります。

──芸能界に進んでから迷いはないですか?

佐野:たくさんあります。いまでも不安です。最初のころは勢いだけでやってきたのですが、最近は特にいろいろなことを考えてしまって「本当にこのまま続けていけるのだろうか」と不安を抱くことは多いです。

──それでも出演作品が形として残っていくという仕事はとてもやりがいがあるのではないですか?

佐野:そうですね、そういってもらえるととてもやりがいを感じます。携わった作品は一人でも多くの人に見てもらいたいという思いがより一層強くなります。

(text&photo:磯部正和)

佐野岳
佐野岳
さの・がく

1992年4月3日生まれ、愛知県出身。大学在学中に、ジュノン・スーパーボーイ・コンテストでグランプリを獲得し芸能界デビュー。2013年に映画『「また、必ず会おう」と誰もが言った。』で映画初出演にて初主演を務める。さらに同年『仮面ライダー鎧武/ガイム』でテレビドラマ初主演を果たす。その後もドラマ、映画、舞台で活躍し、『下町ロケット』(15年)、『仰げば尊し』(16年)、『陸王』(17年)など人気作への出演が続いている。