『サニー/32』北原里英×白石和彌監督インタビュー

北原里英、過酷すぎて思わず監督を無視!の現場語る

#しらいし・かずや#北原里英

「何でもやります!」という気持ちで臨ませていただきました(北原里英)

今春に人気アイドルグループ「NGT48」から卒業する北原里英。これまでも映画やドラマに出演してきた彼女の、女優としての今後が楽しみになる1本、それが主演作『サニー/32』だ。彼女自身が大好きだという映画『凶悪』の白石和彌監督が、『凶悪』の脚本を手がけた橋泉のオリジナル脚本で描くのは、かつて11歳で同級生を殺害した少女“サニー”だと見なされ、2人組の男に拉致監禁された24歳の女性の物語。狂信的な信者たちに囲まれた極限状態の中で、サニーとして覚醒したヒロインを熱演した北原と白石監督に話を聞いた。

──今回、秋元さんから「北原さん主演で」とご指名を受けたと聞きました。お話が来た時にまずどう感じられたかをお聞きしたいんですが。

北原里英(左)と白石和彌監督(右)

白石:『凶悪』が公開されて、『日本で一番悪い奴ら』の撮影前後くらいのタイミングでした。僕の代表作がまだ『凶悪』しかない時点で、「アイドルを撮ってくれ」って……(笑)。何を考えてるんだろうなと。正気じゃないなとは思いました。

──北原さんにはどういうふうにお話が来たんですか。

北原:私は生放送のラジオに出演していた時でした。サプライズ発表があります、というのを目玉にした週に出演していました。ラッキーなことに、秋元先生から「北原で主演映画を撮ろう」というサプライズ発表があって。「本当ですか!?」と。でも、AKB48は、現実にならないこともあるので、なかなか信じられませんでした。

白石:(実現しないことが)多々あるもんね。

北原:なので半信半疑だったのですが、その後に秋元先生から、「北原はどういう映画に出たいの」と聞かれて、「『凶悪』のような映画に出たいです」と伝えました。まさか本当に『凶悪』の白石監督にお話してくださるとは全く思っていなくて。ストレートに自分の夢を話したらこういうことになりまして。人生何があるか分からないなと思います。

北原里英(左)と白石和彌監督(右)

──言ってみるものですね。

北原:言ってみるものだなと思いました。言霊(ことだま)ですね。

──演じた藤井赤理について、どんな女性だと捉えました?

北原:理解できないところもあるのですが、基本的には割と似てるなと感じるところが多くて。教師になることがずっと夢だった女性で、その夢を叶えたけれども、何か想像と違って、思ったようにうまくいかなくて悩んでいる状態だと思いました。

──赤理がサニーとして覚醒した後、ネットのアイドルみたいになりますが、それも北原さん自身と重なってくる部分もあるかと思います。

北原:10年間アイドルをやらせていただきましたが、ネガティブな性格でセンターを意識したことがなかったので、覚醒した後のシーンが不安でした、撮影に入る前は。覚醒した後のカリスマ性をどう出したらいいんだろう、と。

──握手会でファンの方から悩み相談を受けたりすることもあるそうですが、その経験も生かせたのではと思いました。
『サニー/32』
(C)2018『サニー/32』製作委員会

北原:NGT48に移籍して、キャプテンを担当しているのですが、確かに後輩メンバーの子たちから相談されることが増えました。自分の行動に責任を持たなくてはならなかったり、自分が先頭でいなくてはならないという意識を持った経験は全部、今回の作品に生きているなと思います。

──縄で縛られたり、大変なシーンがたくさんでしたが、抵抗はなかったですか?

北原:白石監督に「何でも大丈夫です」と言ったら、こうなりました(笑)。縛られたりするシーンや、なめられたり、それこそ脱いだりすることに対して何も抵抗はなかったです。「何でもやります!」という気持ちで臨ませていただきました。

白石:ただ、できること限界があるからね。いくらやりたい気持ちは先行していても。

『サニー/32』
(C)2018『サニー/32』製作委員会

──かなりきわどいところまで挑戦していましたよね。

白石:結構厳しい演出をしたので大変だったろうなと思います。

北原:いえいえいえ。

白石:他人事のように。

北原:でも、撮影が終わった時に、白石さんも、「いやほんとに一番大変だった。『凶悪の5倍つらかった』とおっしゃっていて、すごくうれしかったです。

──何も抵抗ないと言いますが、すごい場面の連続です。「これはさすがにきつかった」という場面ってありますか。

北原:演じることに抵抗はなかったのですが、きつかった場面は毎日のようにありました。雪山を薄着で逃げるシーンは、今までの人生で一番死に近づいた瞬間でしたね。
雪の上に足跡をつけられなかったこともあり、スタッフの皆さんは離れた場所にいたため、広い雪山に私一人でした。足を踏み入れると腰のあたりまで沈む深さだったのですが、それでも、とにかくやるしかなくて。かき分けながら進むものの、雪が深過ぎて、カットが掛かる前に限界を感じて立ち止まってしまいました。力尽きる素振りを見せてしまって、それで白石監督がカットを掛けてくださったのですが、立ち止まった場所がスタッフの方と離れた場所だったため、すぐには助けに来ていただけず、で。孤独感と絶望感から、遭難する人の気持ちが分かり、もとの道路に戻ってきた時は涙が出ました。

──生きて帰ってこられた! という気分ですね。

北原:白石監督は軽い様子で「お疲れ」と向こうからいらっしゃったのですが思わず無視してしまいまして。そんなこと人生で初めてでした。瀧さんやリリーさんも「大変だったね」と声を掛けてくださったのですが、それにもほぼ反応できなかったです。

白石:俺の知らないところでリリーさんとか、「監督の言ったこと、全部やんなくていいからね」って。

北原:泣いていたので。

白石:「ろくなことならないよ」みたいな。

──でも、結局、言われたことはちゃんと全部やってますよね。

北原:そうですね。屋根から飛んだり、走行する車の上につかまったり。でも、とてもいい経験をさせていただいたなと思います。映画を観た時に、その寒さや過酷さが伝わってきたので2月の新潟で撮った甲斐があったなと思います。

──今のお話を聞いていると、一種ドキュメンタリーになっているようにも思います。寒さに対する北原さんの演技を超えた反応がリアルで。その辺りはどう思われますか? あくまでも作り込んでいきたいのか、リアルなドキュメンタリーっぽさも生かしたい。

白石:僕は後者ですね。作り込むのと、もちろん作り込む部分もあるんですけど。もしかしたらCGで雪原を作って、発泡スチロールか何かで雪っぽくして撮ることも可能。お金をかければ可能でしょうけど、絶対あそこまではリアルにはならないからね。

北原:そうですね、ならないと思います

白石:そこで「お疲れさま」って言ったときに、僕を無視するぐらいの体験をすることがやっぱり重要だと思うんです。作り込むのも必要ですけど、やっぱり後者のほうが映画的な迫力は出るんじゃないかなとは、いつも思っています。

──北原さんの表情がとてもリアルでした。この表情作りは結構苦労されましたか?

北原:実際に瀧さんとリリーさんに対面してからの表情は、2人に引き出していただいたものだと思います。

──全編、気を抜けるような場面が1つもない緊張感でしたが、撮影現場の雰囲気はどうだったのでしょうか?

北原:どう映っていましたか? 白石監督から見て、現場の風景。

白石:いや、和気あいあいと楽しそうに。

北原:良かった。

白石:殺伐とはしなかったよね。

北原:はい。とても楽しかったです。

白石:撮影終わったら、みんなでちょっとお酒飲んだりする日も時々あったりして。

──そんな余裕もあるような?

北原:今回が白石組初参加なので余裕は全くなかったです。

すみません、修行不足で。出直してきます(白石和彌)
『サニー/32』
(C)2018『サニー/32』製作委員会

──撮影期間はかなり短かったそうですが。

白石:3週間弱ぐらいだったと思います。

──撮影地は新潟ですが、それはやはりNGT48ありき、というところからでしょうか。

白石:そうですね。NGT48ができて北原さんがキャプテンになったんで、新潟っていうのもすごい大きなファクターというか。あとは僕の記憶ですよね。やっぱり助監督時代から。雪の新潟での撮影をやりたいなとずっと思っていたんですよ。雪の映画を撮りたいなっていうのがずっとあって。それが今回、すごくいいタイミングではまったと思います。

北原里英(左)と白石和彌監督(右)

──演じる方は大変ですよね、あの大雪では。

北原:そうですね。でも本当に雪の中で撮影した甲斐のある映像になったので。

白石:雪があるからこそ2階から飛び降りたりね。

北原:できましたからね。

白石:雪なかったら絶対無理だもんね。

北原:そうですね。でも、雪があっても本当に怖かったです。

──結構高さもありましたよね?

北原:映像だと高さが全然伝わらなくて。唯一不満があるとしたら、そのシーンです(笑)。

白石:すみません、修行不足で。出直してきます。

──脚本は『凶悪』の橋泉さんですが、白石さんもアイデアを出しながらの作業だったと聞いています。赤理のキャラクターに北原さんを重ねていくような感じは?

白石:多少はありました。ネットで神格化されていくのが偶像なんだとしたら、アイドルもどこかそういう見え方をしているわけで。そういう部分は、本人が意識している、していないに関わらず、ちょっと似たような立ち位置に置けば、見え方も少し変わるだろうなと。

──アイドル映画を作ろうという思いがあったと聞きました。

白石:すごく意識しましたね。『凶悪』とか、普段やっているほうに寄せ過ぎちゃっても良くないと思っていました。見終わった後に何か抱えて帰ってもらいたい思いはあるんですけど、いつもよりは少し、優しい気持ちになれるとか。そういう映画にできたほうがいいだろうとは思いました。

(text:冨永由紀/photo:中村好伸)

しらいし・かずや
しらいし・かずや

1974年12月17日生まれ、北海道出身。1995年、中村幻児監督主催の映像塾に参加。以降、若松孝二監督に師事し、フリーの演出部として活動。若松監督の『明日なき街角』(97年)や『完全なる飼育 赤い殺意』(04年)などで助監督を務めたほか、犬童一心監督、行定勲監督の作品にも参加。2010年、『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で長編映画監督デビュー。同作で共同脚本を務めた橋泉と再び組んだ『凶悪』(13年)は新藤兼人賞2013金賞、第37回日本アカデミー賞で優秀作品賞、同優秀監督賞、同優秀脚本賞、同優秀助演男優賞(ピエール瀧、リリー・フランキー)など映画賞を多数受賞。その他、『日本で一番悪い奴ら』(16年)、Netflixのドラマ「火花」(16年)、『彼女がその名を知らない鳥たち』(17年)などを手がける。公開待機作は『孤狼の血』(5月12日公開)。

北原里英
北原里英
きたはら・りえ

1991年6月24日生まれ。愛知県出身。AKB48で活動した後、NGT48に移籍しキャプテンを務めるなど、注目を集める。2018 年に同グループを卒業したあとは女優として舞台やドラマ、映画で幅広い作品に出演し、活躍の場を広げる。主な出演作は、つかこうへいの名作舞台「『新・幕末純情伝』FAKE NEWS」や白石和彌監督作『サニー/32』、テレビ東京「女の戦争~バチェラー殺人事件~」など。