『五日物語 3つの王国と3人の女』マッテオ・ガローネ監督ンタビュー

残酷で美しい…鬼才監督が描く女の性(さが)とは?

#マッテオ・ガローネ

ダークで暴力的な中世の童話には、現代社会に通ずる部分が多い

ヨーロッパでの童話集の先駆けとも言うべき「ペンタメローネ[五日物語]」。詩人にして傭兵のイタリア人、ジャンバティスタ・バジーレが編纂した物語は、グリム兄弟にも大きな影響を与えたという。

51話からなる「五日物語」をもとに、イタリアの鬼才監督マッテオ・ガローネが幻想的な映像を創り出した。

テーマとなるのは“女の性(さが)”。母となることを追い求める女王、若さと美貌を熱望する老婆、大人の世界に憧れる王女の3人を軸に、運命の皮肉が描き出される。壮麗かつ不気味な映像美が印象的な『五日物語 3つの王国と3人の女』について、ガローネ監督が語った。

──17世紀初頭に編纂された「五日物語」を映像化しようとした理由は?

『五日物語〜』撮影中のマッテオ・ガローネ監督(左)。サルマ・ハエックを演出中。

監督:バジーレが描いたストーリーやビジュアルの力強さ、登場人物たちのオリジナリティに心奪われた。バジーレは「シンデレラ」や「白雪姫」など有名な童話の作者でもあるのに、イタリアでも世界でもあまり知られていない。これはとても残念なことだと思った。だからこの映画を撮ることに決めたんだ。
 バジーレの童話は中世の民話が基になっているから、ダークな部分が多い。17世紀の童話は単なる子ども向けではなく、大人も含むすべての人々を楽しませるために書かれたものだった。だからバジーレの童話にはダークな内容やホラー、暴力といった要素も多く含まれている。今日の私たちの社会が暴力的であるように、その当時も社会は暴力的だったんだろうね。中世の童話には現代社会に通ずる部分がたくさんある。20世紀を代表するイタリア文学者のイタロ・カルヴィーノはかつてこう言っていた。「おとぎ話というものは模範を含み、普遍的で、いつだって現代的だ」と。17世紀にすでにバジーレが美容整形を予期していたこと、そして女性はいかなる手段を使ってでも若く見られたいと望む物語は、現代にも通用するということについて、我々は考えなくてはならないね。

『五日物語 3つの王国と3人の女』
(C) 2015 ARCHIMEDE S.R.L. - LE PACTE SAS

──本作はギレルモ・デル・トロ監督の『パンズ・ラビリンス』を彷彿とさせます。

監督:デル・トロ監督のように多くの方法や特殊効果を試したよ。でも僕はCGではないリアルな怪物をセットに入れたかった。だから海獣とのシーンにはわずかなデジタル機器しか使用してない。これは(“世界初の職業映画監督”とも言われる)ジョルジュ・メリエスへのオマージュなんだ。

かつてあったような、最高の映画の地としてのイタリアをもう一度見たい
『五日物語〜』撮影中のマッテオ・ガローネ監督(右)。サルマ・ハエックを演出中。

──サルマ・ハエック、ヴァンサン・カッセル、トビー・ジョーンズ、ジョン・C・ライリーなど国際的なキャストが揃った作品です。俳優たちへのアプローチはどのようにしたのですか?

監督:僕のアプローチはいつも同じで、俳優たちに、役柄を作り出すときはクリエイティビティを大いに発揮してほしいと伝えている。そこには常にその俳優とキャラクターの融合があるんだ。この映画は年齢の異なる3人の女たちがベースになっているけど、脚本は4人の男たちによって書かれたものだった。登場人物を作り出すに当たって、女優たちにも自身の演じるキャラクターについてどう感じるか意見を聞いた。俳優に対する僕の演出方法はクリエイティブについて意見を交換することから始まっているんだ。これが僕のいつもの直観的なやり方だね。

『五日物語 3つの王国と3人の女』
(C) 2015 ARCHIMEDE S.R.L. - LE PACTE SAS

──では、映画へのアプローチは?

監督:僕のアプローチは知性的というよりかは直観的だ。なぜなら役柄に寄り添って、一緒に冒険の中に生きていくやり方を用いている。僕の08年の作品で、犯罪組織について描いた『ゴモラ』では問題を外側から見ることができるよね。でも僕は問題をいつも内側から見るようにしている。つまり、ある個人がどうやって外的要因によって悪に汚染されていくかを見つめたいんだ。本作では、このやり方を完全に取り入れている。だからこの映画を通して描いた、欲望から変貌していく執念や自己破壊的な結果は、作中に共通要素として表れている。これは僕の映画で繰り返されるテーマだ。

──本作はあなたにとって初の英語作品となりますが、ハリウッド映画についてはどう感じていますか?

『五日物語〜』撮影中のマッテオ・ガローネ監督(右)

監督:撮影している間は映画自身が、次にどうすべきかを僕に教えてくれるね。だからいつだってそれに従ってきたし、心構えもしてきた。この映画の神髄は僕の中では明確だったけど、それを言葉で表現するのはまた別の話だった。僕のアプローチはアメリカ的なやり方とは全く正反対にある。アメリカ的なやり方は僕にとっては悪夢だし、また逆も然りだろうね。僕はイタリアで良い映画を作り、イタリアに資することをしたいと思っている。かつてそうであったような、最高の映画の地としてのイタリアをもう一度見たいんだ。

マッテオ・ガローネ
マッテオ・ガローネ
Matteo Garrone

1968年10月15日生まれ、イタリアのローマ出身。86年、芸術高校を卒業後、撮影技師の助手からフルタイムの絵描きとなるが、次第に映画製作を志すようになり96年に短編作品で賞を獲り、翌年、自身の製作会社アルキメデスを起業する。初の映画『Terra Di Mezzo(原題)』はトリノ映画祭で2つの賞を受賞。その後、いくつかの作品で国内の映画賞を受賞した後、2002年、カンヌ国際映画祭の監督週間で上映された『剥製師』が注目を集める。08年、『ゴモラ』がカンヌで審査員特別グランプリを獲得。12年、『リアリティー』が、カンヌで再び審査員特別グランプリに輝き、イタリア国内の最高賞となるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞とナストロ・ダルジェント賞も3部門ずつ獲得する。次回作は「ピノキオ」の実写版になる予定。