『ナイトクローラー』ジェイク・ギレンホール インタビュー

社会派サスペンスで狂気の怪演を披露!

#ジェイク・ギレンホール

主人公は、いわば複雑で微妙な道徳の一線を綱渡りしている

『ナイトクローラー』
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誰よりも早く事件現場に駆けつけ、被害者にカメラを向ける人々。報道スクープ専門の映像パパラッチ「ナイトクローラー」をテーマに、加熱するスクープ合戦と、そのなかで倫理観を狂わせていく男の姿を描いた『ナイトクローラー』だ。

主演は『ブロークバック・マウンテン』でアカデミー賞にノミネートされたジェイク・ギレンホール。誰からも軽んじられた負け犬がナイトクローラーとしてのし上がり、狂気を帯びていく主人公を怪演している。ムビコレでは、本作のプロデューサーもつとめたギレンホールに、見どころについて語ってもらった。

──ナイトクローラーをテーマにした作品は初めて見ました。とてもオリジナリティの高い作品で、主人公も邪悪な部分と人間的な部分を感じさせ深みがありますね。

ギレンホール:まず何よりも脚本の力だね。それから主人公は、いわば複雑で微妙な道徳の一線を綱渡りしているんだ。どちら側にも容易に振れてしまう。もしくは社会病質的な側により多く振れていく。ダン・ギルロイ監督と僕が、制作中マントラのように唱えていたのは「観客が彼に共感できるように」ということだった。動揺しながらも、彼を応援して欲しかったんだ。

撮影中の様子

──確かに、主人公はパワフルで、つい応援してしまいます。それは、自らの必要に応じて現実を変化させてしまうという特異な傾向を持つからだと思います。

ギレンホール:そうだね、彼がしていることはまさにその通りだ。それから彼は現実を取り上げて、ある種のフィクションに変えてしまう。一線が曖昧になってしまうと、非常に危険なことになるんだ。

──金融市場や失業、永続的なインターンシップ雇用の職業文化などが、こうした生存本能を生み出していると思いますか?

ギレンホール:そうだね。主人公のルーは時代の産物だと僕は思う。情報への欲求、成功への欲求、我々が価値あるものとするアイデアへの欲求。そうしたものが彼を産み出したんだ。それと、「捕まらなければ、何をしても良い」という考え方だ。これは僕にとって興味深い問題だね。

本作は、リアルな政治風刺劇とも捉えることができる

──主人公にはどれくらい共感しますか?

ギレンホール:彼の衝動と野心は理解できる。彼の選択については……とりわけ映画の最後の方で、彼が究極的に成す選択とそれを自分に対して正当化する仕方については、共感できない。でも僕は、それは僕らが普段行う選択のメタファーなのだと思うようになった。例えば、この前仕事で誰かをクビにする必要があった友人がいる。これはある意味、死を宣告するようなものなんだ。だから映画でこの種のことが起きる時は、僕はそれをメタファーとして捉えた。そして、映画は見方によっては、リアルな政治風刺劇とも捉えることができる。

──プロデューサーもつとめていますね。

ギレンホール:役者としては、楽しいことだと思う。なぜならプロデューサー的視点を持てるからね。自分がしっかりと準備するほど、リソースを節約できるし、多くを成し遂げられる。僕はこの映画を、舞台出演と同じように準備した。長い台詞もかなり早い段階で暗記したよ。そうすれば実際の撮影で、2、3テイク撮ってすぐに次に行けるからね。つまりどんどん撮影を進めて、スケジュールを達成できる。僕はプロデューサーの立場から、「スケジュール通り進んでいる。もっと撮影できる」と考えていた。「今日は2ページ分撮影しないと。すごく長い台詞があるなあ……」とみんなが怖気づく場面も、簡単に成功させて、別の部分に力を注げる。だから2役をこなすのはとても楽しかったよ。

──本作は、『ボーン・レガシー』の脚本を手がけたダン・ギルロイの初監督作です。彼とのコラボレーションはいかがでしたか?
撮影中のダン・ギルロイ監督(左)とジェイク・ギレンホール(右)

ギレンホール:ダンは並外れた精神の持ち主だ。僕らは互いの直観を、直観的に理解するんだ。彼はアーティストとして最も高い水準にあり、また計り知れないほど大きなハートの持ち主だ。彼は怖いもの知らずで、恐ろしい場所に大胆に踏み込んでいく。つまり僕が好きなタイプのフィルムメイカーだね。例えば、『複製された男』で組んだドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、自らの内面をよく理解しているから、暗い側面へと踏み込んでいくことを恐れなかった。ドゥニに会ってみれば分かるけど、彼は類を見ないほど素敵な人物だ。「あちら側」を恐れないからこそ、そうした人間に成り得たんだと思う。ダンも一緒だ。彼は、他の人々を怖気づかせる場所へ踏み込むことを恐れない。結果として、彼は広く開かれた心を持つことになる。それを大きな皮肉として捉える人は多いけど、僕はそう思わない。それはただ彼が様々な意味合いにおいて勇敢であり、だからこそ脆いということなんだ。彼は本当に並外れた才能の持ち主だし、僕は彼を人間として深く愛している。言えるのはそれくらいかな。

──主人公のキャラクターは『タクシードライバー』の主人公トラヴィスの再来とまで言われますが、演技する際に意識していましたか?

ギレンホール:ノーだね。比較することを理解はできるけど、僕はそういうアプローチはしないし、トラヴィスに似せるということをモチベーションにして演技をしたりするタイプじゃないんだ(笑)。もちろんあれだけの役柄、あれだけの映画と比べられることはすごく光栄だけどね。

ジェイク・ギレンホール
ジェイク・ギレンホール
Jake Gyllenhaal

1980年12月19日生まれ、アメリカ・カリフォルニア州出身。映画監督の父、プロデューサー兼脚本家の下に生まれ、姉は女優のマギー・ギレンホールという芸能一家。11歳の時に『シティ・スリッカーズ』(91年)でキャリアをスタート。ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞したアン・リー監督の『ブロークバック・マウンテン』(05)で英国アカデミー賞助演男優賞を受賞し、アカデミー賞にもノミネート。『ナイトクローラー』(14年)、『ノクターナル・アニマルズ』(16)などでも高い評価を得ている。その他、『遠い空の向こうに』(99年)、『ムーンライト・マイル』(02)、『グッド・ガール』(02)、『プルーフ・オブ・マイ・ライフ』(05)、『ゾディアック』(06)、『マイ・ブラザー』(09)、『サウスポー』(15)、『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』(15)、『ライフ』(17)などに出演。製作会社ナイン・ストーリーズを設立し、製作者としても活躍。