はちゃめちゃすぎて清々しい! 50%超の多様性が生み出した開放感のNo1ヒット作

#映画#週末シネマ

『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』
(C) 2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C) DC Comics
『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』
(C) 2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C) DC Comics

2016年公開の「スーサイド・スクワッド」で人気を博したキャラクター、ハーレイ・クインを主人公にしたスピンオフ『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』。前作に続いてマーゴット・ロビーがハーレイを演じ、カラフルでスピード感あふれるアクション・エンターテインメントで、先週末に公開されNo1ヒットとなっている。

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物語はハーレイ目線で進む。前作では相思相愛だったジョーカーと破局し、ヤケになって暴れ回っていたハーレイは、いわくつきのダイヤモンドを盗んだスリの少女・カサンドラ(エラ・ジェイ・パスコ)と出会い、宝石を奪おうとする悪党・ブラックマスクの一味からカサンドラを守るはめになる。

ブラックマスクのみならず、最凶のジョーカーという後ろ盾を失い、これまで恨みを買ってきた街の小悪党たちからも追われる敵だらけの窮状なのに、あらゆる束縛から解き放たれたハーレイは文字通り覚醒し、さらに自由に予測不能に突っ走る。

傍若無人にもほどがある暴走に、平気で人を裏切る仁義のなさ。でも全然悪びれない。こんなめちゃくちゃなキャラクターをこれだけ魅力的に見せるのはマーゴット・ロビーならでは、だ。最近の出演作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』、『スキャンダル』とのギャップの大きさは清々しいほど。悪だくみしているいたずらっぽい眼差しと豪快な笑顔、全身から発するエネルギーが強烈だ。

BIRDS OF PREY(バーズ・オブ・プレイ)とはDCコミックスに登場する女性のヒーローチーム。本作では殺し屋ハントレス(メアリー・エリザベス・ウィンすテッド)、ブラックマスクが経営するクラブの歌姫にして腕っぷしの強さも誇るブラックキャナリー(ジャーニー・スモレット=ベル)、手柄を男性の同僚に横取りされてばかりだが、殺人事件捜査に打ち込む刑事のレニー・モントーヤ(ロージー・ペレス)がハーレイとカサンドラの逃亡劇に関わる形で登場する。

「好きなとこから話すね」という開き直ったストーリーの進め方はちょっとずるい演出にも思えるが、おもちゃ箱をひっくり返したようなヒロインの脳内の再現とも取れる。ハーレイが語り、ハーレイが経験している世界をそのまま見せられるような感覚が面白い。

キャラクターには白人にアフリカ系、ヒスパニック系、アジア系が揃い、世代も幅広い。監督のキャシー・ヤンは中国系の女性、脚本のクリスティーナ・ホドソンも『トランスフォーマー』シリーズなどに関わった女性脚本家だ。2018年のアカデミー賞授賞式で主演女優賞を受賞したフランシス・マクドーマンドがスピーチで提言した「インクルージョン・ライダー(映画の出演契約の際に、少なくとも50パーセントの多様性をキャストやクルーに求めることができるシステム)」を実践した構成は、変わろうとするハリウッドの過渡期を感じさせる。街を牛耳るマフィアのボス、ローマン・シオニス=ブラックマスクをユアン・マクレガーが演じている。あまり見せ場は用意されていないが、これはスター俳優が演じてこその役回り。

『アリー/スター誕生』や『ネオン・デーモン』を手がけたエリン・べナッチの遊び心満載の衣装も華やかで楽しい。街の様子も、ほんの半年前に『ジョーカー』で見たゴッサムシティと同じ(一応)とは思えない賑やかさ。世界中に閉塞感が広まる今、この解放感は図らずも特別なものとしてこの目に映った。(文:冨永由紀/映画ライター)

『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』は3月20日より公開中。

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。