『パラサイト』が最多4冠、アカデミー賞の多様性重視の象徴に

#アカデミー賞#興行トレンド

『パラサイト 半地下の家族』
(C)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
『パラサイト 半地下の家族』
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2月10日(現地時間9日)、アカデミー賞授賞式が行われた。主要部門を見ると、作品賞は『パラサイト 半地下の家族』、監督賞は『パラサイト』のポン・ジュノ、主演男優賞は『ジョーカー』のホアキン・フェニックス、主演女優賞は『ジュディ 虹の彼方に』のレニー・ゼルウィガー、助演男優賞は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のブラッド・ピット、助演女優賞は『マリッジ・ストーリー』のローラ・ダーンが輝いた。『パラサイト』は作品賞、監督賞のほか、脚本賞、国際長編映画賞の最多4冠に輝いた受賞結果やノミネートの顔ぶれからハリウッドの映画ビジネスの現状や今後を読み解くと、4つのポイントがあった。

第92回アカデミー賞『パラサイト』最多4部門、外国語映画で初の快挙

1つめは「結局、ハリウッドは多様性を重視している」こと。『パラサイト』が作品賞に輝いたが、外国語映画が作品賞を受賞するのはアカデミー賞史上初めて。ノミネートの段階では多様性が薄く、作品賞候補では韓国映画『パラサイト』のみ。俳優部門では20人の中で唯一黒人女優シンシア・エリヴォが『ハリエット』で主演女優賞候補となった。ノミネート段階での多様性の薄さをアカデミー会員が意識して、逆に『パラサイト』に多様性重視の象徴としてスポットが浴びたと読めそうな結果だ。

2つめは、ハリウッドは外国人監督を求めていること。監督賞受賞者を見ると11年から19年までの9人中8人が米国外の監督。今年のポン・ジュノも韓国出身だ。「ハリウッドは世界中の才能を求めており、認める姿勢もある」と米国内外へアピールしたともいえる。しかも『パラサイト』は「外国映画は当たりにくい」といわれる米国市場で興収3500万ドルを超えている(2月9日時点)。作品の内容はもちろんのこと、興行的な成功を収めた点も「ビジネスにうるさいハリウッド」で評価されるポイントだろう。またジュノ監督が『スノーピアサー』(13年)でハリウッドでの製作経験がある点もプラスに働いているとみられる。

3つめは、アメコミ原作映画の評価がさらに高まったこと。09年に『ダークナイト』のヒース・レジャーが助演男優賞を受賞し、昨年『ブラックパンサー』が作品賞候補となったが、『ジョーカー』でホアキン・フェニックスが主演男優賞を受賞したことで、アカデミー会員はアメコミ原作映画が持つ社会的なメッセージ性を無視できなくなったといえそう。『ジョーカー』は格差問題を扱った点が高く評価される一方、観客の支持も集めて大ヒットした。今後、アメコミ原作映画は娯楽性ばかりではなく、社会性・芸術性を兼ねそなえた作品も増えてきそうだ。

4つめは、今年候補となった女優にはヒット映画を支える女性スターや次世代の女性スター候補が目立ったこと。

〈ヒット映画を支える女性スター〉
●『マリッジ・ストーリー』で主演女優賞候補、『ジョジョ・ラビット』で助演女優賞候補になったスカーレット・ヨハンソン(35歳)
●『スキャンダル』で助演女優賞候補になったマーゴット・ロビー(29歳)

〈次世代の女性スター候補〉
●『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』で助演女優賞候補になったフローレンス・ピュー(24歳)。『ブラック・ウィドウ』で主役のヨハンソンの妹役で出演しており、人気急上昇中。
●『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』で主演女優賞候補になったシアーシャ・ローナン(25歳)。13歳『つぐない』で助演女優賞に初ノミネート。主演候補は今回が3度目

俳優部門での多様性重視の流れが今後どうなるかは不明だが、今年は女性スターにスポットが当たる年となった。(文:相良智弘/フリーライター)

相良智弘(さがら・ともひろ)
日経BP社、カルチュア・コンビニエンス・クラブを経て、1997年の創刊時より「日経エンタテインメント!」の映画担当に。2010年からフリー。