『パラサイト』はネタバレ厳禁! でも、種明かし後も堪能できる考え尽くされた傑作

#週末シネマ#ソン・ガンホ#パラサイト 半地下の家族#ポン・ジュノ

『パラサイト 半地下の家族』
(C)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
『パラサイト 半地下の家族』
(C)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

〈ネタバレあり〉昨年のカンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞し、先日発表のゴールデングローブ賞では外国語映画賞を受賞、2月発表のアカデミー賞でも最有力候補作と見なされている『パラサイト 半地下の家族』。『殺人の記憶』、『母なる証明』などで知られる韓国のポン・ジュノ監督が、格差が広がる社会であり得ないめぐり合わせをした2つの家族を“寄生”をキーワードに描く。

格差社会を痛烈に皮肉り米・仏でも大ヒット『パラサイト〜』ポン・ジュノ監督インタビュー

登場するのは、路地裏にある薄暗い半地下の家に暮らす、家族全員失業中のキム家と、高台の豪邸に暮らすIT企業社長一家のパク家。大学受験に失敗し続けるキム家の息子ギウが、エリート大学生の友人からパク家の家庭教師の仕事を持ちかけられる。閑静な高級住宅地にある、日差しが注ぐ庭に面した広いリビングが印象的な豪邸に赴いたギウはすぐにパク夫人の信頼を得て、請われるままにもう1人家庭教師を紹介する。それが実は自分の妹であることを、ギウは夫人には知らせなかった。

甲斐性のない父親と文句ばかりの母親とその日暮らしを続けてきた兄妹は知恵を働かせ、家族もろともパク家への寄生を企てる。どうやって、そしてそれからどうなるのかは、実際に作品を見て確かめてもらうのが一番だ。

世間では多様性や共存、共生といった理想が謳われているが、実際は簡単に他者、特に異なる境遇の人々を簡単に受け入れる寛容さを社会は持ち合わせていない。人は人を怖がり、それでも誰かを頼りたがる。そんな矛盾をリアリティと風刺たっぷりに、コミカルにもスリリングにも転がしていくのが、ポン・ジュノらしい。どちらかの家庭を悪役にするのではなく、「お互いさま」と思わせる感じの良さと悪さが両家ともにある。

何から何まで対照的なパク家とキム家には、夫婦と子ども2人(男女)という構成以外にもう1つ、家族をとても大切にしているという共通点がある。示し方や意識に違いはあるかもしれないが、登場人物たちを動かすガソリンは家族愛。ただひたすら家族で幸せになることだけを考えて行動しているのだが、誰もが予測不能な展開に引きずり込まれていく。それがなんともブラックなおかしみに満ち、哀しい。そして恐ろしくもある。ポン・ジュノ作品に欠かせない韓国の名優ソン・ガンホがギウたちの父親を演じるが、お気楽に生きてきた父親がパク家を知ったことで徐々に変わっていく様は見事だ。

ネタバレご法度なのだが、では種明かしをされたらおしまいかと言うと、そうではないのが本作のすごいところだ。何度も見返すたびに発見があるはず。どのショットも、どの瞬間も考え尽くされている。ちょっとした物、出来事がサスペンスを盛り上げる。ジョーダン・ピールやウェス・アンダーソン、あるいは黒沢清を想起させる雰囲気があり、様々な作品を入念に研究し、欧米のキャストやスタッフと仕事した『スノーピアサー』『オクジャ/okja』の経験を糧に、オリジナリティをより進化させた印象だ。

格差をより寓話的に描いた『スノーピアサー』よりもリアルに、観客が自身に置き換えて味わうことのできる物語は、文化の違いを超える普遍の共感を呼ぶのだろう。(文:冨永由紀/映画ライター)

『パラサイト 半地下の家族』は公開中。

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。