北朝鮮強制収容所の人々の“夢や憧れ”に思いを馳せ。本気で12万人を救いたいと考える監督が心意気語る

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トゥルーノース
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シリアスものは、知識を伝えるだけでなく、エンタメ性が重要

北朝鮮強制収容所の内情と、そこで生き抜く家族と仲間たちを描いた3Dアニメーション『トゥルーノース』が6月4日に公開される。それに先立ち開催された5月27日の試写会で、監督・脚本・プロデューサーを務めた清水ハン栄治と映画評論家の森直人がトークイベントを行った。

 過酷すぎる北朝鮮強制収容所の内情「そのまま描くとホラーになってしまうのではないか」という衝撃

森は本作品について、本当に凄まじい映画と評価。レオナルド・ディカプリオも激賞したというドキュメンタリー映画『happy-幸せを探すあなたへ』から8年を経て、なぜ今度は北朝鮮の強制収容所をテーマにしたのかその経緯を問われるた清水監督は、『happy-幸せを探すあなたへ』の反響を通じて映画が見た人の人生を変えられることを実感し、人権にかかわる偉人たちの伝記マンガプロジェクトを経て、北朝鮮の人権問題にたどり着いたのだと語った。

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また、なぜドキュメンタリーでなくアニメーションにしたのかという森の問いに対しては、「あまりにも聞いた話がむごすぎてしまって…拷問の話など実写やドキュメンタリーで描いてしまうと一般の皆さんにはあまりにもショッキングで、ホラー映画やグロテスクな話になってしまう。観客の皆さんが最後まできちんと見てくれて、かつ、この話が火星や金星などで起こっている話とは思われないリアリティがありつつ、トラウマにならない表現方法を探した結果、我々が小さい頃から見ているアニメーションという方法にたどりつきました」と語った。

話が清水監督の主宰する東南アジアのアニメーターのネットワーク「すみません」に及ぶと、その名前の由来について清水監督は、「この作品自体のテーマが物議を醸し出すかもしれない、だから会社名で最初に謝っておこうと思って(笑)」と気さくな人柄を覗かせながらも、「本来の思いとしては、物議を醸し出す作品をどんどんやっていこうと思っている」と真の狙いを披露した。

森は、清水監督が初めてアニメーション監督を務めたにもかかわらず、作画のトーンが絶妙なことに注目。「ゴリゴリのリアリズムではなく、かといってコミカライズされたマンガっぽい画ではなく、その中間のほどよいトーンで、内容の情念もきちんと伝わる作画を用いているなぁと思いました」と舌を巻いた。

清水監督はその狙いについて、「本作の場合、内容がきつすぎるので、何かバッファを入れることで見る人に心理的にリアルではないというブレーキがかかり、トラウマにならないように気をつけました」と明かした。たとえば、飢えている人を描くにあたっては、やせた骸骨のような人の絵に影をつけるのではなく、少し可愛らしさが残る丸い人物像をポリゴンが低いカクカクした絵にすることで影を表現するという、独自の手法にたどり着いたという。

次に森が、音楽監督をディズニーアニメ映画『ムーラン』の挿入曲を担当したマシュー・ワイルダーが務めることになったいきさつを訪ねると、当初は清水監督の「友だちの友だち」としてアフレコのスタジオを借りようとしただけだったとのこと。作業を進めるうちに、マシューが作品のテーマ性に惹かれて参加してくれたという。清水監督は、「これは12万人の収容者たちをもしかしたら救うことに貢献できるかもしれない、という僕の思いに、彼も心震わせてくれ、通常ではありえない金額で引き受けてくれることになりました」と打ち明けた。

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また清水監督は、アクティビズム(思想に基づいて積極的に行動すること)とインレテクチュアル(知的な創作活動)、エンターテインメントの関係性について、森と議論を重ねた。

清水監督は、今でも実際に強制収容所に12万人の人たちがいるという事実について、アクティビズムの一環として、この映画を色々な人々に見てもらいたいという思いがあっても、インテレクチュアルだけでは、どうしても一般の人から距離を置かれてしまうとの思いを吐露。

そこで、偉人マンガのプロジェクトに携わったときの経験から、マンガやアニメといったソフトメディアに載せること、さらにアクションやロマンスといった要素を加えてエンターテイメント性を持たせることが重要だと指摘した。

その例として、清水監督は「アンネの日記」を例に挙げて説明。「ホロコーストを知識として知るだけでなく、彼女が外の世界に憧れ、恋をして、将来何になりたいかを語ったりすることによって、我々が自身を彼女に投影することができる。そのときに初めて事実が合致して心に残ると思うのです。本作でも収容所の中で、人々はロボットや家畜のように生きているのではなく、それぞれが夢を持ち、冗談を言い、助け合う、ヒューマニティを見たときに心に響く」と語っている。

そして最後に清水監督は、「僕は、この映画を通して、本気で12万人の人たちを何かしら救いたいと思っています。映画の最後のシーンにも思いを込めましたが、ぜひ見た方一人一人がSNSなどで広げていただければ、その積み重ねが彼らの希望へとつながってくれると信じています」と訴えた。

北朝鮮強制収容所内の人たちは如何にして人間性を保つか?

本作品は、1960年代の帰還事業で日本から北朝鮮に移民したパク一家が政治犯強制収容所に送還される物語を描く。過酷な生存競争の中、主人公のヨハンは次第に純粋で優しい心を失い他人を欺く一方、母と妹は人間性を失わずに生きようとする。そんなある日、愛する家族を失ったことをきっかけに、ヨハンは絶望の淵で「生きる」意味を考え始める。やがてヨハンの戦いは他の者を巻き込み、収容所内で小さな革命の狼煙を上げる。

『トゥルーノース』は6月4日に公開される。

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