“zoomで霊交信”のタイムリーなホラー映画、スピード公開までの道のり

#ZOOM#ズーム/見えない参加者#ビジネス#ホラー#配給

ズーム
『ズーム/見えない参加者』
(C)Shadowhouse Films and Boo-Urns 2020
ズーム
ロブ・サヴェッジ

オンラインで作品買い付け

21115日から公開される『ズーム/見えない参加者』はタイムリーなホラー映画だ。新型コロナウイルスの感染拡大を機に世界的に広まったWEB会議ツール「ズーム(Zoom)」を題材にしているのだ。コロナ禍でロックダウン中のイギリス、ヘイリーは霊媒師をゲストに招き、ズームを介して死者と交信を行う交霊会を仲間たちに提案する。男女6人はいつもの飲み会の軽いノリで交霊の儀式を始めるが、次第にそれぞれの部屋で不可解な現象に見舞われる。全編ズームで撮影し、上映されるスクリーンはズームと同じく46分割され、各人の部屋の映像が流れる。上映時間は68分で通常の映画より短めだ。

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買い付けた配給会社ツインは、『新感染 ファイナル・エクスプレス』『バーフバリ』シリーズなどのヒットで知られる。買い付けの裏側を同社の松尾宗俊氏と徳嶋万里子氏に聞いた。

買い付けたのは209月のトロント国際映画祭。同映画祭は、観客賞を受賞した作品が度々アカデミー賞作品賞を受賞してきたことから、アカデミー賞レースを占う上で重要な映画祭として知られている。同映画祭にはマーケット(映画見本市)が併設されており、映画が売買されている。ベルリン国際映画祭やカンヌ国際映画祭、釜山国際映画祭にもマーケットが併設されているほか、香港やロサンゼルスではマーケットが単独で開催される。20年はコロナの感染拡大の影響で、通常通りの対面形式でマーケットが開催されたのは2月のベルリンが最後。以降はオンライン形式で実施。トロントもオンライン形式だった。

マーケットで売り出される作品を映画祭やマーケットの主催者が公式に発表するのは開催日直前。そこで買い付け窓口となる配給会社の国際部が、作品を売る会社から送られてくるメールやネットにアップされている情報を整理し、リスト化。マーケットに参加する社員に送り、マーケットに臨む。「脚本が事前に送られてくることもありますし、キャストや監督の情報だけで作品内容を想像することもある。簡単なストーリーしか情報がない作品もある」(松尾氏)。『ズーム/見えない参加者』の情報はあまりなかったという。

オンライン形式によるマーケットでは、売りに出されている作品をネットで視聴する。「『ズーム/見えない参加者』を見る前に20数本を見ていましたが、弊社が買い付けたくなるような作品がありませんでした」(松尾氏)。諦めかけていた時に、ホラー映画好きの徳嶋氏が『ズーム/見えない参加者』を見た。「国際部から『ホラー映画があるけど、見てみる?』と言われました。マーケットの後半、あと23日で終わるという時でした。『アンフレンデッド』『サーチ/Search』のようにフェイスブックやSkypeを使った作品、ネット上の画面だけで物語が展開する映画は過去に作られているので『どうなんだろうな』と思いながらも、ズームを使った作品はなかったので好奇心から見ました。作品には怖さやドラマがあり、インパクトがありました。ただし(1時間8分と)上映時間が短いので、ビジネス的にはどうなのかなとも思いました」(徳嶋氏)

日本勢苦戦の中、『ズーム/見えない参加者』に期待

209月に買い付けて、劇場公開は21115日。買い付けから公開まで1年以上かかる作品が多い中、約4ヵ月半後のスピード公開は異例のこと。しかも東京・新宿ピカデリー、グランドシネマサンシャイン、シネクイントほか上映館で鑑賞料金は一律1000円となっている。

ロブ・サヴェッジ

監督は本作が長編映画デビュー作となるロブ・サベッジ。企画からわずか12週間で完成させた。「コロナ禍という制限された環境下でいかにいいものを作るかは、監督の力量次第。(ホラー映画のプロダクションとして有名な)ブラムハウスと新作3本の契約を結んだらしく、いま新作を撮影中。『ズーム/見えない参加者』で注目を集めた監督と言って間違いないと思います。まだ30代ですが、これから飛躍していくと思います」

松尾氏は「私はホラーを見ないのですが『ズーム/見えない参加者』はタイムリーさから見てみました。上映時間が短いのが逆にいいなと思いました。中学生や高校生が映画を見ながらスマホをチェックする場面に遭遇したことがあり、68分間はちょうどいい。ズームは20年に一気に普及しましたが、ブームはすぐ去るので、熱いうちにやらないとビジネス的に厳しい。できるだけ早く劇場で公開でき、若者がターゲットで上映時間が短いので、鑑賞料金を1000円にできるのなら買い付けてもビジネスとして成り立つのではないかと判断。」

徳嶋氏は「『事故物件 怖い間取り』がヒットしたことも影響しているようです」という。「『事故物件』はホラー映画をあまり見ていないライトな映画ファンも来ている。ホラーでも、所々に笑えるシーンや、心が休まる場面があるほうが逆にいいんじゃないかという意見が上映劇場側からありました。『ズーム/見えない参加者』は本格的な怖さがあるホラーではなく、68分間でアトラクション的な展開がある。今の風潮に合うのではないかという意見もありました。コワ面白い、コワ楽しいと感じるのものがブームのような感じがします」。

実はツインでホラー映画を配給するは初めてだ(『新感染 ファイナル・エクスプレス』をホラー映画には分類せず)。徳嶋氏は「ホラー映画をマーケットで数多く見て、社内で情報を共有しますが、社内ではあまり反応してくれません()。ホラーが苦手な社員が多いというのもあるでしょう。今回は買えて個人的にうれしい。『ズーム/見えない参加者』をヒットさせ、ホラーを今後積極的にやっていけたらいいなと思います」

日本の配給会社が買い付けてヒットしたホラー映画には『ヘレディタリー 継承』『サスペリア』などがある。ネットフリックスやアマゾンなど動画配信サービスが世界の権利をまとめて買い付けるケースが増え、日本の配給会社が日本の権利を買えない作品が増えており、かつてのようなサクセスストーリーが生まれにくくなっている。そんな中、『ズーム/見えない参加者』がどんな興行を見せるのか、期待したい。