国際的政治闘争に巻き込まれるライター“ゴースト”

『ゴーストライター』は、2010年公開のフランス・ドイツ・イギリス映画。ロバート・ハリスが、自身の同名小説を、ロマン・ポランスキー監督とともに映画化したミステリー。主人公のゴーストライター(ユアン・マクレガー)が、英国の元首相 アダム・ラング(ピアース・ブロスナン)の自伝執筆を依頼されたことで、英国とアメリカの特別な関係に基づく国際的なスキャンダルに巻き込まれる。映画の中のインテリアという観点から見直してみよう。

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「ハートで書く」とアピールして見事ライターの仕事を勝ち取ったものの、自殺などしそうにもない前任のマカラは自殺扱いだし、帰宅の途中で強盗に原稿を奪われるなど、先行きは不安だ。しかも情報漏洩を防ぐため、ラングのいる島の一角に事実上軟禁される“ゴースト”。執筆に許された時間は一ヵ月だ。

ミステリアスを演出するドイツの高級インテリア

“ゴースト”の家は雑然としており、JBLのスピーカーはあるが、生活に必要なもの以外はめぼしいものはない。冷蔵庫にもスミノフが1本あるのみだ。

一方、元首相のラングにとってオフィス兼住宅のような建物は、アメリカの孤島にある。素材感剥き出しのRC造りの要塞さながらの雰囲気で、1階がオフィス、2階がリビングや寝室、ゲストルームとなっており、実に整然としている。

この2階で、“ゴースト”はラングと打ち合わせしながら原稿を作っていく。大きなガラス窓のおかげで眺望豊かだが、インテリアは全編ダークで無機質。ブラウンで直線基調のデザインのテーブルやソファ、シャープなデザインのオーディオセット等が置かれ、石貼りの壁に石造りの豪華が暖炉が映える。色味としては、全体としてグレーを基調にし、差し色として大きな抽象画の赤ないし赤茶が入る。

このようなダークで無機質、静謐な空間は、ミステリー映画ならでは。渦巻く陰謀や秘密が掘り起こされるのを拒否するかのようだ。本作では、この2階インテリアで、ドイツのWalter Knoll(ウォーター・ノル)がインテリア協力をしている。直線基調のソファFoster(フォスター)シリーズが空間を占め、建築的な構造で、船にかかる橋のようにも見えるウォールナット調のテーブルCEOO(シーイーオーオー)が複雑な状況を映し出している。

一方で、1階のキッチンは、白の壁にステンレス。ブラックの棚があり見せる収納だが、スタッフたちにとって心安まる日常の場である。

マホガニー調の重厚なインテリアと対比

本作では、もうひとつ注目したいインテリアがある。ケンブリッジ大学のポール・へメット教授の家だ。

マホガニー調の木がはりめぐらされた重厚な作りのオフィスには、本が並び、椅子はワッフルチェア。廊下の奥に覗くキッチンにも大皿が並び、暮らしぶりの良さをうかがわせる。

最後まで一気に見せる傑作サスペンス映画。時代を超越する上質な各場面のインテリアは、表面上の見せかけなのか、主人公の内面を表しているのか? ロマン・ポランスキー監督の緻密な場面設定をさりげなく演出する手法として、こうしたインテリアは重要なヒントになるだろう。(文:fy7d)