【鯉八の映画でもみるか。】懐かしさという感情はいつだって無敵だ! 下積み時代の4畳半を再訪するも…

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鯉八の映画でもみるか。
【ムビコレ・コラム】落語家・瀧川鯉八の映画でもみるか。
(毎月15日に連載中)
鯉八の映画でもみるか。
瀧川鯉八(たきがわ・こいはち)
2006年瀧川鯉昇に入門。落語芸術協会若手ユニット「成金」、創作話芸ユニット「ソーゾーシー」所属。現在二つ目の落語家で、2020年5月真打ち昇進予定。文化放送「SHIBA-HAMAラジオ」(2018年10月~19年3月)水曜パーソナリティー。2011年・15年NHK新人落語大賞ファイナリスト。第1回・第3回・第4回渋谷らくご大賞。映画監督アキ・カウリスマキが好きで、フィンランドでロケ地巡りをした経験も。
ゴジラ

【落語家・瀧川鯉八の映画でもみるか。/第13回】

有名人が下積み時代に住んでた家やお世話になった人を訪ねるテレビ番組が大好きで。
成功者にも苦労した時期があったんだなぁとやる気をもらえるし、再会した人たちの「覚えててくれたんだぁ!」と喜んでる顔もなんだか良くて。

有名人じゃないとテレビの企画としては成立しないけど、実は自分だけが楽しむだけなら誰がやっても楽しい企画なんです。

・【鯉八の映画でもみるか。12】通りがかりの映画館で待望のウディ・アレンを! 気分はすっかり「雨に唄えば」

ぼくは2006年に落語の世界に入門しました。
4年間はそれはそれは辛い前座修行。
1日足りとて休みはありません。
その頃は東京都北区に住んでました。
最寄り駅は王子駅。
駅から歩いて20分の風呂なし共同便所の4畳半のアパート。
家賃は3万円。
そこに前座仲間とふたり暮らし。
正確にはゴキブリとネズミも同居していたので大家族。
そこに布団をふたつ敷けば、もう足の踏み場もありません。
(ちなみにお隣さんは宝田明さんの大豪邸。往年の銀幕スターは気取りが一切なく気さくな人柄で近所の人々に尊敬され愛されていた。主演作『ゴジラ』は特撮映画の金字塔。現在のCG技術が逆にお粗末に感じるくらいに、当時の方々のアイデアと血と汗と涙が伝わってきます)

若さからくる余りあるエネルギーと先の見えない将来の不安からくるストレスを、わずかなお給金を握りしめ飲み歩いてしまい、ふたりで折半してるはずの家賃をも滞納してしまう日々を1年続けた結果、当然の如く退去命令が下りました。
各々さらに安いアパートを引っ越したのですが、2009年に偶然ふたり同じ仕事が王子駅前であったので住んでたアパートを訪ねてみようということに。
ふたりともまだ前座。
なにも成し遂げてもいません。
引っ越してからまだ半年しか経ってないので、当たり前のようにアパートは存在してましたが、とりあえずふたり口を揃えて言ってみました。

「まだあるんだ~!」

表を大家さんが掃除してたので、また言ってみました。

「大家さん全然変わってない~!」

ぼくらのこと覚えてますかと声を掛けると、
「誰だっけ?」
ほら、よく家賃滞納してご迷惑掛けた落語家ですと言うと、
「みんな滞納してるからいちいち覚えてない」

その節は申し訳ありませんでしたと頭を下げ失礼すると、今度はよく飲みに行ってた中華屋さんに。

「ただいま~! お母ちゃん元気してた?」

と威勢よく店に入りましたが、当時からお母ちゃんなどと気安く声を掛けたことなどありません。
ですが、こっちはもう有名人再訪のモードなので気にしません。
ところが店は居抜きで激安居酒屋に変わってました。引くに引けず、

「これこれ~。やっぱこの味だよな~!」

と大声でしこたま飲み食いし、もう一軒はしごして銭湯に入って帰りました。

人間の記憶は曖昧で適当だけど、いくらでも改ざんして楽しめるものだとよくわかりました。
懐かしくもあり、手軽に感動できるのでオススメです。
そのもう一軒の居酒屋というのはよくドラマや映画などで撮影場所に使われているコの字形のカウンターがある有名店です。

ぼくが何を言いたいかというと、使う方も使われる方も撮影に慣れてるから同じ店が頻繁に使われるのだなと大人の事情を理解したということです。
ちなみに、その銭湯の前にあるヘンテコで大きな虎のオブジェもなんだか素敵です。
ぜひ映画の撮影に!

※【鯉八の映画でもみるか。】は毎月15日に連載中(朝7時更新)。