たった一音で緊張感と恐怖感を! 音による恐怖の演出が際立つ1本

#ドラマ

『呪怨:呪いの家』Netflixにて配信中
『呪怨:呪いの家』Netflixにて配信中

2000年にビデオ版が発売され、2003年に劇場第1作が公開。その後も多くの続編が作られ、ハリウッドでもリメイクされた『呪怨』シリーズの最新作『呪怨: 呪いの家』が、Netflixオリジナルドラマとしてスタートした。同シリーズとしては初のドラマフォーマット作品であり、初のストリーミング配信作品でもある。全6エピソードで、監督は『きみの鳥はうたえる』の三宅唱、脚本は同シリーズとも縁の深い高橋洋と一瀬隆重が担当している。

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1988年、心霊現象研究家の小田島(荒川良々)は、あるバラエティ番組で共演した若手タレントの本庄はるか(黒島結菜)が聞いたという謎の足音に興味を持ち、リサーチを始める。過去に忌まわしい出来事があった「呪いの家」に、年月を超えて次第に吸い寄せられる人々が抱く恐怖や絶望を描いた本作では、映像だけでなく、音による恐怖の演出も印象的だ。

第1話の冒頭から、約3秒の間隔をおいて鳴り続ける不穏な音。古いアップライトピアノとトライアングルを同時に鳴らしたようなその音は“レ”のシャープぐらいの音程で、小田島の「呪怨は、実際に起きた出来事を参考に作られた」という言葉で始まるモノローグの後ろで1分間ほど鳴り続ける。この音は、その後もドラマの要所要所で流れ、ある意味で本作のテーマというか、サウンドロゴと言ってもいいほどのインパクトを持つ。

『呪怨: 呪いの家』の音楽を担当するのは、数多くの映画やドラマ、CMの音楽を手がける島邦明。『呪怨 ーザ・ファイナルー』をはじめ、幅広いジャンルに多彩な楽曲を提供している人だが、特によく知られている楽曲といえば『世にも奇妙な物語』シリーズのテーマ曲「ガラモン・ソング」だろうか。この曲のように、一度聴いたら忘れられないキャッチーなメロディを書ける作曲家でありながら、本作ではたった一音で見る者に緊張感と恐怖感を与える真逆のアプローチをとっているのが興味深い。

また、各エピソードの最後に流れるエンディングテーマは、MAREWREW(マレウレウ)の「sonkayno」という曲。MAREWREWは、アイヌ系住民が多く住む北海道・旭川の近文(チカプニ)出身のレクポとマユンキキらによって結成されたグループで、アイヌの歌を伝承することをテーマに2010年より活動を続けている。UAや細野晴臣、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文らとの共演でも知られ、国内外に多くのファンを持つ。「sonkayno」は彼女たちのデビューアルバム『MAREWREW』や2016年のアルバム『chikapuni』にも収録されていた伝統的な遊び唄である。この曲の持つ不穏さや冷たさが、それぞれのエピソードの(もちろんいい意味での)後味の悪さを引き立てている。

第1話冒頭のモノローグのあと、事務所で自分の出演番組を録画したビデオをチェックし、続けて本庄はるかが録音した謎の足音を聞く小田島。1988年という設定なので、録音メディアはもちろんカセットテープだ。ラジカセにテープを突っ込み、再生すると、「トットットットットットットッ……」という音に次いで不気味な呻き声のようなものも聞こえる。一気に引き込まれるこのオープニングからして、本作の“音”へのこだわりようがうかがい知れる。全6エピソード、見だすともう止められない恐怖の連鎖。『呪怨』シリーズに対峙するときの独特な感覚が蘇る充実作である。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)

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