ピンボケ写真から伝わってくるのは、家族を思う優しさ/『世界から猫が消えたなら』

#映画

『世界から猫が消えたなら』
(C) 2016映画『世界から猫が消えたなら』製作委員会
『世界から猫が消えたなら』
(C) 2016映画『世界から猫が消えたなら』製作委員会

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『世界から猫が消えたなら』

先月放送が終了したドラマ『恋はつづくよどこまでも』や、いよいよ最終章の公開が発表された映画『るろうに剣心』シリーズなど話題作が続く佐藤健さんが、一人二役を演じたファンタジードラマです。佐藤さんが主人公の“僕”と“悪魔”を、そして元恋人を宮あおいさん、映画オタクの親友を濱田岳さん、疎遠になった父を奥田瑛二さん、死別した母を原田美枝子さんが演じています。

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原作は2013年に本屋大賞にノミネートされた川村元気氏による同名ベストセラー。脳腫瘍のために突然余命宣告された“僕”が、自分と瓜二つな“悪魔”から1日の延命と引き換えに「この世界からモノを一つ消す」という取り引きを持ちかけられた事から始まります。電話、映画、時計とひとずつ世界から消えるごとにそれぞれに結びついていた思い出や絆を振り返る内容で、自分を見つめ直していく“僕”の姿に日々の大事さを感じさせられました。

佐藤さんの地味な“僕”とちょっとふざけた“悪魔”との演じ分けや、世界から何かが消えるVFXの表現、優しい映像など見どころは多々ありますが、そんな中に印象的な1枚の写真が出てきます。序盤、“僕”が何気なく手にした思い出の写真箱に入っていた写真で、“僕”は大切そうに見つめるもその時は大きくブレていて誰が写っているのかもどこで撮影したのかも分からない内容でした。でも、物語の後半にその写真の背景が描かれます。病で余命いくばくもない母親と家族3人で最後の温泉旅行をした際に、父親がフィルムカメラで撮影したものでした。写真に写っていたのは“僕”と車いす姿の母親、そして涙をこらえる父親の心情がブレとなって写り込んでいます。そんな父親を見て、母親は「手震えてるよ」と和やかに“僕”に語り掛けます。

藤田一咲さんの著書「お茶と写真の時間」 (エイ文庫)で、「写真のおもしろさは、写真に写された人のまなざしやそこに写っていない撮影者のまなざしを感じること。」と書かれた一文を思い出しました。原作では写真を撮るのは宿の主人ですが、映画では父親になった事で、寡黙ながらも繊細な心が伝わるシーンになっていると思います。一見、ただ失敗しただけのような写真から伝わる優しさも含めて、ぜひ見ていただきたいです。(文:ナカムラ ヨシノーブ/フォトグラファー)

ナカムラ ヨシノーブ
日本広告写真家協会(APA)会員。Web媒体を中心にインタビュー撮影や執筆を担当。好きな映画ジャンルはフィルム・ノワールとホラー全般。