伝説のミュージカル女優は虹のふもとで何を見ていたのか?映画『ジュディ 虹の彼方に』

#ジュディ 虹の彼方に

(C) Pathe Productions Limited and British Broadcasting Corporation 2019

レニー・ゼルウィガーが伝説のミュージカル女優ジュディ・ガーランドに扮し、自身2つ目のオスカー像を手にしたことで話題の映画『ジュディ 虹の彼方に』が3月6日より全国公開される。

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本作はジュディ・ガーランドが亡くなる約半年前の、1968年ロンドン公演の日々を描く。ミュージカル映画『オズの魔法使』で17歳にして一躍スターダムを駆け上がり、大スターとしての地位を築いたジュディだが、度重なる遅刻や無断欠勤に映画出演のオファーも途絶え、この頃には巡業ショーで生計を立てることを余儀なくされていた。ガーランドと言えばハリウッド黄金期を支えたミュージカル映画のスター女優。借金や貧乏とは無縁なものと思っていたが、徐々に明らかにされる彼女の生涯は実に波乱万丈だ。本作では子ども時代の回想シーンをはさみながら、彼女の人生を紐解いていく。

13歳で大手映画会社MGMのオーディションに合格し『オズの魔法使』の主役に抜てきされると、彼女を待っていたのは、撮影のため食事や睡眠も満足にとれない日々。ハードスケジュールを乗り切るため、MGMの指導で薬を飲み始めたジュディは、その後の人生でもずっと薬を手放せなくなる。今では組合などにより最低労働時間のルールが厳しく定められているが、約80年前は会社の言うことには従うしかなかった時代。本作では詳しく語られないが、後に薬にアルコールも加わり、神経を病んだジュディは頻繁に撮影に穴を開け、ついにはMGMから解雇されてしまう。

ジュディと同じ47歳(撮影時)を迎えたレニー・ゼルウィガーが、ブロンドヘアを封印して黒髪ショートに一新。圧巻の歌と演技で、伝説のミュージカル女優になりきった。特に、ステージでマイクを握った瞬間、エネルギーが内側から一気に爆発するような歌唱パフォーマンスには圧倒される。そうだ、この人はブリジット・ジョーンズでもあるが、ミュージカル映画『シカゴ』(02年)のロキシーでもあったのだと思い直す。

元々ジュディのファンだったゼルウィガーは、リハーサルの1年も前から独自に歌のレッスンをスタート。ジュディの仕草やしゃべり方のクセまでを徹底的にマスターした。魂の熱演を見せたゼルウィガーは、ゴールデングローブ賞主演女優賞(ドラマ部門)を受賞。勢いそのままに、現地時間2月9日に発表されたアカデミー賞でも、主演女優賞を獲得。『コールド マウンテン』(03年)の助演女優賞に続き、2度目のオスカーに輝いた。授賞後のスピーチでは、尊敬するヒーローとしてジュディのほかにも、ボブ・ディランやスコセッシの名前などを挙げ、「ヒーローは私たちが何者かを思い出させてくれ、1つに結びつけてくれる。ジュディは存命中にこのような栄誉を受けることはなかったけれど、今この瞬間は、彼女のレガシーを称える延長だと思っています。彼女にこの賞を捧げます」と述べた。

アイルランド出身の女優ジェシー・バックリーが、ロンドン公演でジュディの世話係をするロザリン役を好演。バックリーは2017年に英国アカデミー賞(BAFTA)のブレイクスルー・ブリッツ(有望な新人)に選ばれた注目の若手女優で、今後も主演映画『ワイルド・ローズ』(6月26日公開)やロバート・ダウニーJr.主演のリメイク版『ドクター・ドリトル』の公開(3月20日)が控えている。年上のジュディに物怖じせず、情緒不安定な彼女を支え、公演終了後は食事に招いて労うなど、ジュディを献身的にサポートする。また、バックリーが演じたロザリン本人が、ジュディを知る“生き証人”として本作に協力しており、描写にリアリティを与えている。

10代前半から薬漬けかつ撮影スタジオに缶詰めのような状態で、子どもらしい子ども時代を送れず、やがては映画界からも見放されたジュディ。コンサートに活路を見出し、一定の人気を誇ったものの、ステージ上での喝采もその空白を埋めることはできなかったのか、彼女は生涯で5人の夫を持った。そう聞くと自由奔放なイメージを抱くが、本作で注目したいのは、知られざるジュディの母としての顔。2人の子どもがいたジュディは、母子3人で安定した生活を送るため、ロンドン公演に旅立つことを決意。元夫に2人を預けるが、それが結果的に子どもたちとジュディを引き離すことになる。

愛する子どもたちも、5番目の夫ミッキー(フィン・ウィットロック)も彼女の元を離れていき、またひとりきりになったジュディ。だがラストにもう一度、ステージに上がった彼女が、代名詞とも言えるナンバー「オーバー・ザ・レインボー/虹の彼方に」を全霊で歌い上げると、会場全体が一体となる魔法のような瞬間が訪れる。

本作のベースとなっている舞台のタイトルは「End of the Rainbow」。ロンドン公演の約半年後に、わずか47歳でこの世を去ったジュディ、虹の橋を渡りきったふもとで、彼女は何を見ていたのか。(文:Sara Suzuki/London)

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