将校の妻らを抱き復讐をささやく美青年、死と官能に満ちた問題作

#ヴィクトール・ムーテレ#エリック・クルム・ジュニア#カロリーネ・ハルティヒ#フィリップ#ミハウ・クフィェチンスキ#映画

(C)TELEWIZJA POLSKA S.A. AKSON STUDIO SP. Z.O.O. 2022

原作は1961年にポーランドで出版されるも、その内容の過激さから発禁処分に

第2次大戦、ナチス支配下のポーランド、そしてドイツ。ユダヤ人としての素性を隠して生きている美⻘年フィリップが、復讐、愛、死、孤独、そして時代に翻弄されながら、もがき生きていく——。ミハウ・クフィェチンスキ監督の映画『フィリップ』より、フィリップが復讐のために生きることになった瞬間を捉えた本編映像を紹介する。

・過激なセックスシーンの撮影は「驚くほど穏やかでした」娼婦が働く”娼館”の裏側描く『ラ・メゾン 小説家と娼婦』

・【動画】ナチス占領下の強制収容所、ペルシャ人と偽って架空のペルシャ語をナチス将校に教える囚人の物語/映画『ペルシャン・レッスン 戦場の教室』予告編

本作は、ポーランド人作家レオポルド・ティルマンド実体験に基づく自伝的小説「Filip」(日本未刊行)の映画化。原作は、1961年にポーランドで刊行されるも、その内容の過激さから発禁処分になり、60年の時を経た2022年にようやくオリジナル版が出版された。

1941年、ワルシャワのゲットーで暮らすポーランド系ユダヤ人フィリップ(エリック・クルム・ジュニア)は、恋人サラとゲットーで開催された舞台でナチスによる銃撃に遭い、サラや家族、親戚を目の前で殺されてしまう。

2年後、フィリップはフランクフルトにある高級ホテルのレストランでウェイターとして働いていた。自身をフランス人と偽り、戦場に夫を送り出し孤独にしているナチス将校の妻たちを次々と誘惑することでナチスへの復讐を果たしていたが、孤独と嘘で塗り固めた生活の中、やがて、プールサイドで知的な美しいドイツ人のリザ(カロリーネ・ハルティヒ)と出会い、愛し合うようになる。だが、戦争は容赦なく2人の間を引き裂いていく…。

監督のミハウ・クフィェチンスキは、1990年代よりテレビプロデューサー兼演出家としてキャリアを重ねたのち、ポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダ監督作品のプロデューサーとして、後期代表作『カティンの森』(07年)『ワレサ 連帯の男』(13年)、そして遺作『残像』(16年)を製作した。彼は本作を手掛けた大きな理由のひとつとして「、ポーランドで愛する人を亡くしたユダヤ人の主人公は、そのような状況下で何を感じるでしょうか? 私はティルマンドの本を心理的で緻密な映画にし、トラウマから感情が凍り付いた男の孤独を研究することに決めました」と明かしている。

今回紹介する映像は、突如始まった銃撃戦によって、フィリップが恋人のサラを失う様子を映し出したもの。ワルシャワ・ゲットーの舞台上でダンスを披露していた2人。その直前にはプロポーズも済ませ、幸せいっぱいだった。だが、踊っている最中に突然乗り込んできたナチスの部隊が、会場の人間たちを一⻫に銃で撃ち殺し始める。

ダンス中、ズボンの紐が緩んだことで舞台袖に隠れていたフィリップは、奇跡的に命拾いする。呆然とした彼の目に映ったのは、銃撃戦に巻き込まれたサラの命が果てた姿だった。なんの罪もない人間が、理不尽な理由のために一瞬で命を失う。無邪気に愛と人生を信じていたフィリップの表情豊かな笑顔が一転、彼が復讐のために生きることになった瞬間を捉えた映像となっている。

『フィリップ』は6月21日より全国公開。