挑み続ける女優マーゴット・ロビー、『バビロン』のヒロインとの違いは?

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『バビロン』
(C) 2023 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

ハーレイ・クイン役で鮮烈な印象を残した女優は製作にも進出

【この俳優に注目】ハリウッドで現在活躍する女性たちの中で、最も挑戦し続けている1人は間違いなくマーゴット・ロビーだろう。

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2013年、マーティン・スコセッシ監督の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』でレオナルド・ディカプリオの妻役を演じて一躍脚光を浴びたロビーは、モデルのような完ぺきな容姿と確かな演技力で瞬く間に引く手数多の売れっ子になった。1990年生まれで20代半ばの若さだったが、続けて出演した作品での役柄はいわゆるブロンド美人的なものではなく、むしろ女性の強さを印象づけるキャラクターが多かった。特にインパクトが大きかったのはド派手でポップな装いとクレイジナー存在感を放った『スーサイド・スクワッド』(16年)のハーレイ・クイン役だろう。

『スーサイド・スクワッド』
(C)2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., AND RATPAC-DUNE

続けて、1990年代に世界を騒がす大スキャンダルとなったアメリカのフィギュアスケート選手の物語『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(17年)に主演し、アカデミー主演女優賞にノミネートされた。この時、ロビーは同作の製作も務めている。ロビーは2014年、後に夫となる映画プロデューサーのトム・アッカリーを含む親友3人と製作会社「LuckyChap Entertainment」を立ち上げ、『アイ,トーニャ~』は記念すべき第1作だ。

『バビロン』のヒロイン役に「親近感のある役は初めて」

ハリウッドでスターになるためには美貌と若さは武器になる。だが、綺麗なだけでは見下され、消費されて終わってしまう。俳優ならば演技力はもちろんのこと、度胸や行動力も欠かせない。そこに運という不確かな要素も加わってスターが誕生する。『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼル監督の最新作『バビロン』で彼女が演じた、1920年代のハリウッドで映画スターを目指すネリー・ラロイはまさにそんな女性だ。ロビーは「ネリーほど親近感のある役は初めて」と語るが、母国オーストラリアでデビューし、あっという間にハリウッドでスターの地位を確立した彼女が、身一つでハリウッドへやって来て自力でスターになったネリーに自己投影するのは当然だろう。

(C) 2023 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

「彼女は勢いよくやって来て、誰にも邪魔をさせない」。ネリーを語る言葉に、『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』のオーディションでディカプリオに平手打ちを食らわせたのがきっかけで起用されたこと、クエンティン・タランティーノに「いつか一緒に仕事をしたい」と手紙を書いたことから『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(19年)の出演が決まったエピソードを思い出す。

『バビロン』で主演を務めるブラッド・ピットも『ワンハリ』の出演者だが、同じ昔々のハリウッドの物語でも、タランティーノが史実を曲げてまで描いた多幸感あふれる世界に対して、『バビロン』はノスタルジー抜きで真っ暗な闇に包まれた悪夢が続く。ピットが演じるサイレント映画のスターはトーキー到来で落ちぶれていく。その様は『ワンハリ』でレオナルド・ディカプリオが演じた落ち目の映画スターよりもずっと不幸だ。そしてロビーは2作を通して、ハリウッドの生贄のようなヒロイン二態を演じている。

『バビロン』 (C) 2023 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

プロデューサーを務めた『プロミシング・ヤング・ウーマン』が高評価

ロビーがネリーと最も違う点は、ハリウッドの狂乱に流されることなく地に足をつけて、映画を作るという使命を追い続けていることだろう。一俳優として映画出演しながら、映画製作者の仕事も並行させるロビーは、一部の俳優のように名前を出すだけのお飾りではなく、撮影前の打ち合わせや予算についての話し合いにもコミットしているが、“映画スター”という先入観を持って対応されることが多く、プロデューサーとして真剣に受けとめられないこともしばしばだという。

だが、彼女が製作した2020年の『プロミシング・ヤング・ウーマン』は第93回アカデミー賞で作品賞など5部門にノミネートされ、監督のエメラルド・フェンネルがオリジナル脚本賞を受賞した。自ら主演も務めた『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』(20年)でも女性監督キャシー・ヤンを起用し、女性キャスト中心で迫力のアクションとシスターフッドが鮮烈な快作をコロナ禍に打ち出した。

(C) 2019 WBEI and c&TM DC Comics

昨年ロビーは『バビロン』のほかにもう1つの大作『アムステルダム』(デヴィッド・O・ラッセル監督)に出演した。こちらも『バビロン』と同じく、鬼才監督の意欲作だ。大ヒットを期待されながら興行成績は振るわなかったが、個人的には2022年のベスト5には入る快作で、中でも魅力的だったのはロビーが演じたヒロインだった。1930年代アメリカで起きた政治陰謀事件の実話の映画化で彼女が演じたヴァレリーは架空の人物だが、ヨーロッパとアメリカを渡り歩き、自由を謳歌し追い求めるキャラクター像は、インタビュー映像などで見るロビーに似て、快活で勇敢で美しい。

次はバービー役! あの着せ替え人形の物語を製作・主演

ロビーには2023年、大きな注目を集めている新作がもう1本ある。7月公開予定で製作・主演を務める『バービー(原題)』だ。1950年代から世界中で愛されてきた着せ替え人形バービーの物語の実写化で、『ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語』のグレタ・ガーウィグ監督で、ロビーがバービーを演じ、バービーのボーイフレンド、ケンをライアン・ゴズリングが演じる。バービーランドを追放されたバービーが人間社会で真の幸せを追求するというストーリーで、『2001年宇宙の旅』を思わせる意表をついた予告編も話題を呼んでいる。ガーウィグと夫のノア・バームバック(『マリッジ・ストーリー』『ホワイト・ノイズ』)が脚本を務め、ケイト・マッキノンやシム・リウが出演し、ナレーターにヘレン・ミレンが名を連ねる本作が、極彩色のバービーの世界でどんな物語を展開するのか、こちらも楽しみに待ちたい。(文:冨永由紀/映画ライター)

『バビロン』で魅惑的な女優役を演じたマーゴット・ロビー、その他の写真はこちら

『バビロン』は2023年2月10日より公開中。

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