80年代ポップスをバックにゲイと炭坑夫の意外すぎる結束を描いた実話『パレードへようこそ』/前編

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『パレードへようこそ』
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今日から全国で順次公開される『パレードへようこそ』は、エネルギッシュでどこまでもポジティブ。見ている方まで思わず拳を振り上げてしまうような、そんな勇気や高揚感を与えてくれる作品だ。

[動画]『パレードへようこそ』予告編

物語は1984年のイギリスで実際にあったことをベースにしている。時の首相であるマーガレット・サッチャーが、強硬な経済政策のひとつとして20ヵ所にもおよぶ炭坑の閉鎖案を発表。それに抗議する炭坑労働者のストライキをニュースで知ったゲイの青年=マークが、彼らを支援するための募金活動を思い立ったことが物語の発端になっている。

サッチャーと警官は、自分たちゲイと炭坑労働者の共通の敵(サッチャーは同性愛者の存在にも難色を示していたとされる)。そんな思いから、マークは“LGSM(レズ&ゲイの炭坑夫支援会)”なる団体を設立し、バケツを片手に街角で寄付金を募る。多くの炭坑労働組合が“LGSM”を名乗るだけで寄付金を受け取ることさえしないなか、ウェールズの炭坑町の役場がちょっとした勘違いからその寄付金を受け取ることに。そこで奇しくも両者の間に友情が芽生えはじめる。

まるで映画のようなストーリーだが、“LGSM”は実在した団体であり、そのカリスマ指導者であるマーク・アッシュトンら主要メンバーたちも確かにその時代を生きた実在の若者たちだ。しかしその事実が記載された資料が極端に少なく、脚本のスティーブン・ベレスフォードは長い時間をかけてその事実を調べ上げたという。そして存命中のメンバーも制作に協力する形で、本作の輪郭は次第にくっきりしたものになっていったようだ。

監督のマシュー・ウォーチャスは、舞台を中心にキャリアを積んできた人で、『ゴースト/ニューヨークの幻』の舞台化などで知られている。映画監督としてはサム・シェパードの戯曲を原作とする『背信の行方』を1999年に制作しており、本作は監督2作目となる。(後編へ続く…)(文:伊藤隆剛/ライター)

伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。

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