【週末シネマ】困難を乗り越え“ちょっとだけ”成長した男の姿にリアリティを感じる

『LIFE!』
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『LIFE!』

飛び抜けた才能があるわけでもなく、容姿に恵まれたわけでもなく、勤勉なだけが取り柄の中年男。現実逃避するように、日常生活の中で突然空想の世界に浸ってしまう。ベン・スティラーが監督・主演する『LIFE!』は、そんな男が1枚の写真を探して、文字通り “想像を超える”大冒険へと踏み出していく物語だ。

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実は本作は1947年のダニー・ケイ主演作『虹を掴む男』のリメイク。60年以上の年月を経て、オリジナルでは恐妻家の主人公は、独身で婚活サイトに登録しつつ、年老いた母親の生活を心配するという、まさに現代の都会人そのものにアップデートされている。

『LIFE!』の主人公のウォルター・ミティは休刊が決まった「LIFE」誌の写真管理部で働いている。真面目な仕事ぶりで信頼の厚い彼のもとに、カリスマ的カメラマンから写真ネガが送られてくる。添えられた手紙には、そのなかの1コマが最終号の表紙写真用だと書かれているが、指定された番号がない。必死に探すが、見当たらず、ウォルターは大切な写真を求めて、携帯電話も持たないカメラマンを探す旅に出ることになる。

前半はニューヨークでの日常が描かれる。リストラ担当要員の嫌がらせを受けるとき、気になる同僚女性と会話するとき、ウォルターは現実逃避するように夢想する。CGを駆使したSFアクションになったり、ラブコメ風になったり、めまぐるしく変化するが、大がかりであっても意図的にチープに仕立てているように見える。所詮はつまらない男の貧困な想像力の産物なのだというように。

それが、秘境へ撮影に出かけたカメラマンを追い始めてからはどうだろう。わずかな手がかりを便りにアイスランドへ飛び、酔っぱらいパイロットが操縦するヘリコプターに飛び乗り、荒海にダイブする。得意のスケボーで山中を疾走し、火山噴火にも遭遇し、危険地帯にも踏み込んでいく。徐々に妄想は減っていき、“小説より奇なり”の現実を体感するのだ。

長い旅を終えた後、ウォルターはびっくりするほどキリッとした顔つきになる。だが、猫背は変わらない。何かを経験し、ほんの少しだけ変わった。そんなリアリティが伝わってくる。監督が主演もつとめる映画はほかにもあるが、その兼任がうまく作用した好例であり、『ズーランダー』『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』など、毒もあるコメディが得意なスティラーの新境地開拓と言えそうだ。

もう1つ、ウォルターを旅立たせるきっかけとなるカリスマ・カメラマンを演じるショーン・ペンが最高に良い。ちょっと他では見せたことのないようなキラー・スマイルとキャラクターで、彼もまたこれまでにない一面を見せている。(文:冨永由紀/映画ライター)

『LIFE!』は3月19日より全国公開中。

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