パルムドールのオストルンド監督「原始的な幸福の叫び」で会場沸かす

是枝裕和監督の『ベイビー・ブローカー』に主演したソン・ガンホが最優秀男優賞、パク・チャヌク監督の『Decision to leave(英題)』が監督賞を受賞し、『PLAN 75』を「ある視点」部門に出品した早川千絵監督が、新人監督賞にあたるカメラドール賞で特別表彰されるなど、アジアの作品が注目された第75回カンヌ国際映画祭。最優秀賞パルムドールを受賞したのはスウェーデンのリューベン・オストルンド監督の『Triangle of sadness(英題)』だ。

パルムドールは拝金主義を痛烈に描く『Triangle of Sadness』

オストランド監督は2017年に『ザ・スクエア 思いやりの聖域』でパルムドールを受賞しており、2度目の受賞は日本の今村昌平監督(『楢山節考』『うなぎ』)やアメリカのフランシス・フォード・コッポラ(『カンバーセーション…盗聴…』『地獄の黙示録』)、イギリスのケン・ローチ(『麦の穂をゆらす風』『わたしは、ダニエル・ブレイク』)とベルギーのダルデンヌ兄弟(『ロゼッタ』『ある子供』)らと並ぶ。

『Triangle of sadness』は、超リッチなモデルたちやオリガルヒの一団が乗った豪華客船が転覆、無人島に漂着する中で、サバイバル術を心得ていた船内メイドがヒエラルキーの頂点に立つという風刺コメディ。オストルンド監督はスピーチで「この映画を作り始めたとき、私たちの目標はひとつでした。観客に興味を持たせ、挑発されて考えさせられるような映画を作ることです」と語り、前回の受賞時と同様に「原始的な幸福の叫び(Primal scream of happiness)」を会場全体に促し、歓声と共に締めくくった。

受賞者のスピーチでは、アカデミー賞授賞式などと同様に退場を促す音楽が流れるが、ほぼ全員がそれを無視して話し続け、映画祭側も受賞者が話しているのを察知すると音を止めるなど、式次第よりも人優先の進行だった。

新旧両世代の監督が受賞を分け合ったグランプリでは、第2のグザヴィエ・ドランとも評される31歳のルーカス・ドン監督の『Close(原題)』と、ベテランのクレール・ドゥニ監督の『Stars at noon(原題)』が登壇した。

13歳の少年の思春期を描いた『Close』はドン監督の自伝的要素もあり、主演のエデン・ダンブリーヌと一緒に登壇した監督はスピーチで、「守りたい相手と距離を置くことが多かったです」と2年以上続くコロナ禍を振り返り、「優しさをテーマにした映画を作りたかったのです。私たちは、互いに支え合うよりも戦い合う男たちを撮ることに慣れていると自覚しています。でも、脆(もろ)さはスーパーパワーになれるのです」と、繊細な作品の重要性を語り、喝采を受けた。

下馬評では作品に厳しい評価が多かったドゥニ監督だが、スピーチでは「映画を自宅のソファで見るのはよくありません。映画館で見る方がずっといい。映画館で見ると、インパクトが違うのです。映画を作りたくなる、映画で演じたくなる、映画について多くを教えてくれる。映画が生まれる場所なのです」と語った。

同じく2作品が受賞した審査員賞も、新旧両世代の作品だ。シャルロット・ヴァンデルミールシュ&フェリックス・ヴァン・フローニンゲンの『Le otto montagne(原題)』、『EO(原題)』のイエジー・スコリモフスキ監督は今年84歳で、最初にカンヌ国際映画祭に参加したのはちょうど50年前。1972年に『King, Queen, Knave(原題)』をコンペティションに出品し、過去にグランプリや脚本賞も受賞している。

『オールド・ボーイ』パク・チャヌク監督が監督賞

監督賞は、下馬評では最高賞受賞の期待も高かった『Decision to leave(英題)』のパク・チャヌク監督が受賞。『オールド・ボーイ』でグランプリを受賞して以来の受賞となった。今回、ほぼパンデミック以前と同様のスタイルで開催された映画祭で過ごし、監督は「私たちはこのウイルスを打ち負かすことができました。私は、映画人たちのおかげで映画に対する恐怖心が克服され、観客が劇場に戻って来ることを確信しています」と語った。

パク監督の受賞時に抱き合って喜んだソン・ガンホは『ベイビー・ブローカー』で最優秀男優賞を受賞し、「偉大な映画作家、是枝さんに感謝いたします。私たちの監督です」と呼び掛けると、客席の是枝監督は笑顔で拍手を送りながら、親指を掲げ、会場も喝采に包まれた。そしてカン・ドンウォンをはじめ共演者の名前を挙げて「この賞を彼らに捧げます」と言い、カン・ドンウォンが手を振る様子が映し出された。

最優秀女優賞のイラン人女優「この映画は女性についての映画。イランでは見せられない」

最優秀女優賞を受賞したのは『Holy Spider(原題)』のザール・アミール・エブラヒミ。母国イランを舞台に2000年代に実際に起きた連続娼婦殺人事件をもとにしたスリラー。事件を追うジャーナリストを演じた彼女は、性的スキャンダルに巻き込まれて国外に出た経験を持つ。「この映画は女性についての映画です。彼女たちの体についてであり、顔、髪、手、足、胸、セックス……イランでは見せることのできないものに満ちた映画です」と語った。

『Boy from heaven(英題)』で脚本賞を受賞したタリク・サレも、自作の作風のために母国エジプトを離れざるを得なかった。スピーチで母国の映画人たちに向けて「彼らが声をあげることができるよう願っています。故郷を離れるに値するものなどありませんが、日の目を見るべき作品もあるのです」と語りかけた。

祖国を離れることを余儀なくされた映画人の受賞や、2作同時受賞が2部門に及ぶなど、ドラマティックな瞬間に満ちた映画祭は幕を下ろした。

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