【今日は何の日】カクテルの日×映画、松田優作やマリリン・モンローのあの名作を!

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『七年目の浮気』 [Blu-ray]
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5月13日はカクテルの日だそうだ。そこで今回は、作中にカクテルに絡んだシーンが出てくる映画をご紹介する。登場するカクテルは、XYZとマティーニだ。松田優作やマリリン・モンローが出演する、往年の名作で2本である。

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「これで終わりって酒だ!」 松田優作の怪演に戦慄

XYZというカクテルがある。ご覧のようにアルファベットの最後の3文字が並んでいることから、「これ以上はない」「これで終わり」といった意味があるとも言われているが、定説はないようだ。このXYZが登場するのが、同名の小説を原作としたハードボイルドアクション『野獣死すべし』である。

松田優作演じる血に飢えた冷徹な主人公・伊達が、警察官から奪った1丁の拳銃を使って殺人を伴う数々の犯罪を重ねていく。大胆な犯行を重ねているにもかかわらず、警察になかなかその尻尾を掴ませない。目にはまるで生気がなく、能面のように無表情で淡々と語る伊達のキャラクターは不気味としか言いようがない。途中で、伊達とは対照的に血の気が多く、一回キレたら何をしでかすかわからないチンピラの真田(鹿賀丈史)を仲間に引き入れて犯行を重ねていく。この2人のキャラクターは静と動の両極にあり、両俳優の怪演は鳥肌モノだ。

そんな中、ついに1人の刑事が伊達に目を付けて尾行を始める。何度かシラを切ってあしらうものの、相手は蛇のようにしつこくまとわりついてくる。ついにブチ切れて伊達が凶暴な本性を現し、刑事に拳銃を突き付けて「寝る前にお話ひとつしてあげますよ」とアメリカの短編小説「リップ・ヴァン・ウィンクル」の話を始める。主人公リップ・ヴァン・ウィンクルが森の中で小人に酒をふるまわれて思わず寝込んでしまい、村に戻った時には何十年もの歳月が経っていた、という浦島太郎的な話なのであるが、そこで振舞われた酒がいかに美味しかったかを強調して刑事に聞かせる。刑事は、拳銃を突き付けられて恐怖で震えながら、空々しい作り笑顔を浮かべて「なんていう名前の酒をもらったんだ? できれば俺も飲んでみたいなあ」と涙目で伊達に言うのである。

伊達「ラム、コアントロー、それにレモンジュースを少々。シェイクするんです。わかりますか?」
刑事「…X、Y、Z」
伊達「そう。これで終わりって酒だ!」
といって引き金を引くのである。

伊達は、通信社のカメラマンとして世界各地の戦場を渡り歩いてきた男だ。その経験が彼の中の禁断の野獣を目覚めさせてしまった経緯と、興奮のあまり豹変した狂気の姿がラストシーンで明かされる。

“どぶろっく”的妄想の嵐! スカートがまくれ上がるマリリンの名作

マリリン・モンローと言えば、なんといっても地下鉄の通風孔からの風を受けてスカートがまくれ上がるあのシーンが有名だ。ビリー・ワイルダー監督×マリリン・モンローのゴールデンタッグの名作コメディー『七年目の浮気』のワンシーンである。このシーンを何度も何度も撮り直したことから、「まさかあなたの私的コレクションのために撮ってるんじゃないでしょうね?」とマリリンが皮肉を言ったというエピソードも残っている。

この映画は、夏に妻子を避暑に送り出したNYマンハッタンの男性たちを描いたもの。「鬼の居ぬ間に洗濯」とばかり、浮気の虫がうずき出した亭主たちは良からぬことを考えて街中が浮かれモードだ。そんな中、お人好しで小心者の中年男の編集者リチャードは、「俺は世間の男どもと違って羽目を外すようなことはするものか」と妙に気負っている。ところが、自身の住むアパートの上階に短期の下宿人としてカーヴィーボディの魅惑の美女マリリンがやってくると、一気に鼻の下が伸びて決心が揺らいでしまう。誤ってリチャードの敷地内にトマトの鉢を落としたマリリンに対し、「お近づきの印にうちに来て1杯いかがです?」と自宅に誘う。この部屋飲みのシーンで、カクテルが登場するのだ。

ジンはあるけれどトニックウォーターが切れていてジントニックは作れない。そこでリチャードが提案したのが、ジン×ベルモットをステアして作るカクテルの王様「マティーニ」である。「じゃあそれを大盛りでお願い」。無邪気な金髪美女のマリリンは、そうリクエストする。それを受けて、本来逆三角形のカクテルグラスで供されるマティーニを、リチャードはビッグサイズのトールグラスに氷を入れたスタイルで提供する。「キツいわ。お砂糖を入れてくれない?」「マティーニに砂糖は邪道だよ」「でも私の故郷コロラドのデンバーでは入れるわよ」そんなやり取りが交わされる。

リチャードは、お笑いコンビ・どぶろっく流の「もしかしてだけど」的妄想の達人だ。まさかの美女の出現に、オメデタイ妄想が暴走する。半面、「もしもこれがバレたら大変!」というネガティブモードの暴走も半端ない。現実と妄想シーンが交錯するのが、この作品の一番の面白さだ。「頭が空っぽのブロンド美女」を見事に演じ切っているマリリンにも拍手である。不思議なことに、マリリンの役名が作中で明かされることはない。物語の中心人物でほぼ出ずっぱりでありながら、最後まで「名無し」のままで終わる。カクテルではないが、「ポテトチップスをシャンパンに浸して食べると美味しいわよ!」と無邪気にはしゃぐマリリンも印象的だ。本当に美味しいのか、ぜひ試してみたいと思う。(T)