70年代のアイコン、戦う音楽家フランク・ザッパが貫き通した信念とは?

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『ZAPPA』
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ビートルズやストーンズにも影響を与えた孤高のミュージシャン

【週末シネマ】キアヌ・リーヴスとダブル主演の『ビル&テッド』シリーズのビル役で知られるアレックス・ウィンターは、キャリアの当初から俳優業と並行して監督として作品を作り続けてきた。ロックをこよなく愛するビルと同様、音楽にも親しんできたウィンターが敬愛するミュージシャン、フランク・ザッパの真の姿に迫るドキュメンタリー『ZAPPA』を完成させた。ザッパの音楽を愛するファンにも、その名前すら知らない人にも、その稀有な魅力は響くはずだ。

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ザッパは1960年代から、実験的なロックからオーケストラ音楽まで、1つのジャンルに収まらない活動を続けてきたアメリカのミュージシャン。1993年、52歳の若さで亡くなった彼はその前衛的なスタイルで、ビートルズやローリング・ストーンズをはじめ、ブライアン・イーノ、ジョージ・クリントンなど同時代に活躍した様々なジャンルのアーティストに多大な影響を与えたほか、ローウェル・ジョージやテリー・・ボジオ、スティーヴ・ヴァイなどザッパのバンドに参加して才能を開花させたミュージシャンも少なくない。

『ZAPPA』

ザッパは生涯を通して62枚のアルバムを発表し、死後も53枚のアルバムがリリースされている。全像を網羅しようとすれば、2時間程度では到底まとめられない。ウィンターは、ザッパを70年代の音楽と文化を体現するアイコンとして捉え、音楽業界で完全に独立した活動を続けてきたザッパがどんな人物なのか、深く掘り下げることにフォーカスした。

初公開のものを含む膨大な資料をもとに、ザッパの歩みをたどる

2015年に亡くなったゲイル夫人の信頼を得て、ザッパが遺した膨大な資料へのアクセスを許可されたウィンターは、未発表の音源、映像、未完成のプロジェクト、未公開インタビューやライヴ音源などの膨大なアーカイヴ資料の修復にまず取りかかり、この時点で2年を費やしたという。古いものは8mmや16mmのフィルム、あらゆるフォーマットのビデオや音源が何千と残されていた。本作で始めて公になる素材も多く含まれている。

物作りや編集作業が好きだった少年時代、皆がプレスリーに夢中になるなか、現代音楽のエドガー・ヴァレーズやR&Bに傾倒し、16、17歳からオーケストラ曲を書き始め、やがて仲間を集めて自作曲を演奏するようになった軌跡からは、ザッパとは“バンドを結成し、演奏もする作曲家”であったことがわかる。

自由を守るため、商業的成功とは距離を取り続けた

自分の作った音楽を完ぺきに再現する演奏。シンプルにして実に難易度の高い理想を目指し、孤高だが、独特のカリスマ性が多くのミュージシャンを惹きつけたことは、彼のもとに集まった顔ぶれを見ればわかる。デヴィッド・ボウイもエリック・クラプトンも、カリフォルニアに来たロックスターたちがみんな会いたがる。ジョン・レノンとオノヨーコもザッパと演奏し、弦楽四重奏のクロノス・カルテットはザッパ作曲の楽曲を演奏した。

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80年代には、10代だった長女ムーンと一緒にシングル「ヴァレー・ガール」をリリースし、大ヒットさせたが、それは例外で、商業的成功には敢えて距離を取っていた。人気を得ても、ビートルズだって業界から搾取されていた現実に対抗して、全て自分でコントロールしたザッパは自由を重んじ、大物アーティストたちが口をつぐむ中、歌詞の検閲政策に反対の声をあげた。

戦う音楽家だったザッパは1990年に前立腺癌と診断され、晩年の数年間は自身の集大成を形にして遺すことを意識して活動した。1992年9月のドイツ・フランクフルトで行われた、遺作となるライブ・アルバム「イエロー・シャーク」の公演の様子も収められ、ザッパが室内楽団「アンサンブル・モデルン」を指揮する姿も見られる。

映画は1991年、チェコスロバキアのプラハ演奏するザッパの様子から始まる。その2年前のビロード革命で同国はソ連の支配から自由になり、ロシア軍の撤退を祝う式典に招かれたのだ。ギターを演奏する記録はこれが最後のものだという。「みなさん知っての通り、これはあなたがたの国の新しい未来の始まりに過ぎない」「新しい変化に直面するだろうが、あなたがたの国のユニークさを守っていってください」と語った。ユニークでい続けること。その信念を貫き通したフランク・ザッパという生き方、彼の音楽はインスピレーションそのものだ。(文:冨永由紀/映画ライター)

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『ZAPPA』は、2022年4月22日より全国順次公開。