【週末シネマ】人間の本質に迫り、見る度に新たな発見がある壮大な野心作

『クラウド アトラス』
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『クラウド アトラス』

壮大のひと言に尽きる。SF、ラブストーリーに社会派ドラマの片鱗も──といくつもの要素が交錯する『クラウド アトラス』は、19世紀から24世紀まで、6つの時代と場所を舞台に、豊かなエンターテインメントを提供しつつ、あらゆる境界線を取り払って人間の本質に迫るという命題に挑戦した野心作だ。

『クラウドアトラス』ウォシャウスキー姉弟&トム・ティクヴァ監督インタビュー

波乱に満ちた航海記、知られざる名曲誕生の秘話、エネルギーをめぐる利権絡みの陰謀劇、クローン少女の革命といった刺激的なエピソードには、自由を渇望する者の闘い、命懸けの信頼、禁じられた愛といった共通項がある。1つの物語から別の物語へと、まさしく流れる雲のように移行し、時空を超えた魂の旅を描く1つの大きなうねりを作り出していく。

トム・ハンクスやハル・ベリーといったスターキャストが、時代も人種も、場合によっては性別をも超えて複数のキャラクターを演じる。すべてのエピソードに登場するハンクスは19世紀に生きる狡猾で強欲な医者から、大規模な破壊後に原始的な生活へと逆行した23世紀に生きる真摯な男へと変化していく1つの魂を演じる。19世紀の奴隷、20世紀の正義感あふれるジャーナリスト、近未来の才人……と、やはり魂の成熟を演じたベリー、ジム・ブロードベンド、ヒューゴ・ウィーヴィングといったヴェテランの手堅さ、何と言っても原子力発電所社長から人食い族まで一貫して悪を表現したヒュー・グラントの怪演も忘れがたい。

クローン少女を演じたペ・ドゥナ、物語の発端となる航海誌を書いた19世紀の弁護士役のジム・スタージェス、禁断の恋に苦しむ悲劇的な若者たちを演じたベン・ウィショー、ジェイムズ・ダーシーらが演じるキャラクターも、異なる時代で再会を繰り返しながら成長を遂げていく。

三島由紀夫の「豊穣の海」の影響もうかがえるデヴィッド・ミッチェルの原作を脚色、監督したのは『マトリックス』シリーズのラナ&アンディ・ウォシャウスキー姉弟と、『ラン・ローラ・ラン』のトム・ティクヴァ。それぞれの強い個性が相乗効果となり、どちらか一方だけでは決して成し得なかったスケールと深みが生まれた。

それぞれの物語を分断し、その後に1つずつ解き明かしていった原作を、本作はさらに細かく分解し再構築している。異なる1つ1つの事象が、どれほど密に繋がり合っているのか、見るたびに新たな発見ができる。小説が映画へと生まれ変わる、本作の出来上がる行程そのものが『クラウド アトラス』という物語を表すかのようで、興味深い。(文:冨永由紀/映画ライター)

『クラウド アトラス』は3月15日より全国公開中。

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