【週末シネマ】中国への社会風刺たっぷり、でも純粋に胸躍る活劇としても楽しめる快作

『さらば復讐の狼たちよ』
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【週末シネマ】『さらば復讐の狼たちよ』

中国映画の興行収入で『レッドクリフ』や『パイレーツ・オブ・カリビアン』を越える、歴代No.1に輝く作品だという。その題材は「三国志」のような史劇でもなければ、抗日運動を描くものでもない。では、何が中国の観客たちを惹きつけたのか? チョウ・ユンファをはじめとするスター・キャストがアクション満載で繰り広げるギャングと腐敗した権力者との攻防の物語のなかに、現代中国に対する鋭い風刺の数々を読み取るからだという。

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舞台は1920年の中国のとある地方。1911年の辛亥革命後、結局理想の社会は作られず、権力を金で買った支配者たちが私利私欲を貪り、社会は混乱を極めていた。そんななか、金で県知事の地位を買い、妻を連れて意気揚々と赴任地へ列車で向かう詐欺師がギャングに襲撃されるところから物語は始まる。命惜しさに詐欺師はギャングのボス“アバタのチャン”に「県知事になれば、金儲けができる」ともちかけ、この話に乗ったチャンは県知事になりすまし、街へ赴任する。そこには人身売買と麻薬の取引で巨万の富を築き、暴力で街を支配する独裁者ホアンが君臨していた。

実質的な主役であるチャンを演じるのは、本作の監督でもあるチアン・ウェン。『太陽の少年』(94年)や、香川照之の熱演が話題を呼んだカンヌ国際映画祭グランプリ受賞作『鬼が来た!』(00年)などで映画監督として国際的に評価されているが、チャン・イーモウ監督の『赤いコーリャン』(87年)、中井貴一共演の『ヘブン・アンド・アース』(03年)などで活躍する俳優でもある。単なる金目当てから巨悪打倒の使命を得た7人のギャングのボス、チャンとして、いかんなくカリスマ性を発揮している。チャンを迎え撃つ街の独裁者を演じるチョウ・ユンファの、にこやかな堂々たる悪役ぶりも必見。中国で国民的な人気を誇るグォ・ヨウも詐欺師マーの狡猾さをきっちり演じてみせる。また、カリーナ・ラウ、『レッドクリフ』で趙雲を演じたフー・ジュン、チェン・クンといったスターが顔を揃えている。

当局の検閲を通さず海外上映を行った『鬼が来た!』で中国政府の不興を買い、不遇の期間も長かったチアン監督の反骨精神が発揮されたトリビアの数々については本作のパンフレットや公式サイトなどにも細かく解説されている。だが、種明かしを知ったところで、現代中国の実態を知らない者は「なるほど。そうですか」と思うだけで、中国人観客と同様にいちいち反応することはできないだろう。1つ1つのシーンに込められた暗喩の知識を備えて臨むのもいい。だが、何より本作が素晴らしいのは、予備知識無しに見ても、胸躍る活劇として存分に堪能できる傑作に仕上がっていることだ。

冒頭、山間を馬が引く列車が疾走していく。中国語で馬列車(マーリエチュー)は“マルクス・レーニン主義”の略語“マーリエ”と発音が似ていて、その馬列車が転覆するという設定に皮肉が利いているとの見方もあるが、中国事情に疎い筆者は、それよりも映像の大迫力に胸を打たれる。銃撃戦、大爆破、ワイヤーアクション、と古今東西の娯楽映画のおいしいところをくまなく採り入れ、社会風刺という知的刺激も盛り込んだ。実に欲張りで、挑戦的。魅力あふれる快作だ。

『さらば復讐の狼たちよ』は7月6日よりTOHOシネマズ 六本木ヒルズほかにて全国公開される。(文:冨永由紀/映画ライター)

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『さらば復讐の狼たちよ』作品紹介

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