人気シリーズのスピンオフ『キングスマン:ファースト・エージェント』

【週末シネマ】ロンドンのサヴィル・ロウにある高級紳士服店を拠点に、どこの国にも属さない中立の諜報機関の活躍を描く『キングスマン』シリーズ。マシュー・ヴォーン監督が現代を舞台に描いた『キングスマン』(2014年製作)、『キングスマン:ゴールデン・サークル』(2017年製作)に続く第3弾はスピンオフであり、前2作の前日譚だ。製作スタジオの買収とその後のパンデミックで当初の公開予定から2年以上経ち、近代の史実から大胆に飛躍しながら、「キングスマン」誕生秘話を描いていく。

豪華絢爛な宮廷を舞台に宿敵ラスプーチンと激しい戦いを繰り広げるキングスマン

レイフ・ファインズとハリス・ディッキンソンが親子役

前2作の主人公だったコリン・ファースとタロン・エジャートンの師弟関係を踏襲するのは、レイフ・ファインズとハリス・ディッキンソン。平和主義の貴族、オックスフォード公爵とその息子コンラッドを演じている。前2作が擬似親子的な関係だったのに対して、今回は正真正銘の親子だ。

父と息子の境遇を説明する冒頭から、マシュー・ヴォーン監督は前2作とは大きくトーンを変えて物語を進める。人間関係をよりシリアスに描き、そして第一次世界大戦という題材をめぐってドラマティックに広がる。

キングスマン:ファースト・エージェント

辛口のユーモアと意表を突くアクションは健在

オックスフォード公は20世紀初めの不穏な社会情勢の中で世界大戦を防ごうと人知れず活動している。幼くして母を亡くしたコンラッドを、有能な執事ショーラ(ジャイモン・フンスー)と家庭教師ポリー(ジェマ・アタートン)の手を借りながら育て上げ、立派に成長した息子に贈る初めてのスーツを仕立てるのは馴染みの高級紳士服店「キングスマン」だ。

では、なぜこの店が諜報機関の拠点となったのか? その経緯に絡むのは、第一次世界大戦勃発のきっかけとなった1914年のフランツ・フェルディナンド大公暗殺、大戦下の英陸軍大臣だったキッチナー伯爵の戦死、1917年のロシア革命など、歴史を動かした数々の事件。その背後に知られざる組織の暗躍があったという設定で物語は進んでいく。辛口のユーモアや意表を突くアクションは今作でも健在だ。

リス・エヴァンスが怪演、トム・ホランダーも本領発揮

組織に属するのはロシアの狂僧ラスプーチン、後にアドルフ・ヒトラーのお抱え預言者となったエリック・ヤン・ハヌッセンや美貌の女スパイとして名を馳せたマタ・ハリなど、歴史上にミステリアスな存在感を放った実在の人物たち。特にリス・エヴァンスが演じるラスプーチンの奇怪な迫力と明るさは笑えると同時に恐ろしくもあり、オックスフォード公と彼の右腕でもあるショーラとのバトルは本作の見どころの1つ。アルプスの山岳地帯のシーンでは、垂直と水平どちらもスケール大きく使ったアクションにも目を見張る。

過保護な父の庇護を振り払ってコンラッドは軍人として戦地に赴き、平和主義者のオックスフォード公も大戦に巻き込まれていく。それぞれの場所で戦う父と息子の物語も、すべての糸を引く黒幕の正体も、思いがけない展開だ。悪ふざけスレスレだが、史実を踏まえながらの脱線は型破りであっても型なしには陥っていない。

マシュー・グード、ダニエル・ブリュール、チャールズ・ダンスなど、うまい俳優がキャストに揃い、個人的に最高の性格俳優だと思うトム・ホランダーが本領発揮の活躍を見せるのが楽しい。エンディングのクレジット表記にも「その通り」と頷いた。(文:冨永由紀/映画ライター)

『キングスマン:ファースト・エージェント』は、2021年12月24日より公開。