狂っているのは、世界か、不審な男か。トラウマ映画『クリーン、シェーブン』25年ぶりに劇場公開

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止まらない思い込み……彼に救いはあるのか

幻覚幻聴、視線に悩まされる統合失調症の男の姿を徹底的に抑制されたトーンで映し出した、サスペンス映画『クリーン、シェーブン』が、25年の時を経て、8月27日より公開される。カルト的人気を誇る本作より、陰鬱とした世界観の本編映像が解禁された。

頭に受信機、指には送信機が…娘と引き裂かれた孤独な男の姿にトラウマ必至

本作は、ロッジ・ケリガン監督が93年に発表した初の長編作。第20回テルライド映画祭でワールドプレミアの後、第11回サンダンス映画祭や第47回カンヌ国際映画祭の他、ニューヨーク近代美術館でも上映され、そのノイズにまみれた唯一無二の映像表現を、スティーヴン・ソダーバーグ、ダーレン・アロノフスキー、ジョン・ウォーターズといった錚々たる監督たちが、“忘れがたき表現性”と絶賛した。日本では、96 年にレイトショーのみで公開されたが、近年では見ることができない“幻の作品”となっており、再公開を望む声があがっていた。

公開された映像では、視線を過剰に感じて落ち着きをなくしてしまう主人公ピーターが、車の鏡や窓ガラスを新聞で覆い、車で走行中、大声で騒ぐ見知らぬ男と路上で遭遇する場面からはじまる。見知らぬ男は「俺から逃げようったって無理だ!」と何かに怒り狂っている。偶然、車で通りかかったピーターに向けられた言葉では無いはずだが、ピーターは一時停止の標識を確認し、男の前で車を停める。他人の声、犬が吠える声も重なって、ピーターの頭にこだまする。その時、怒る男の目のアップショットが入ることでピーターが視線も感じ、とてつもない不安にかられている様子が見て取れる。頭の中に鳴り響くノイズ、罵声、そして人々からの視線。図書館で本棚に頭を打ち付けるピーターの姿は見る者にどんな印象を与えるだろう。

ピーターを不審者と見なすか、繊細がゆえに苦悩する男と認識するかで、見方が大きく変わる本作。彼の苦しみに救いはあるのか。監督の指示のもと、2年間に渡る撮影に耐えたピーター・グリーンの壮絶な演技によって実現した、あまりにも切なく哀しき男の物語をしかと見届けて欲しい。

本作を鑑賞した、書籍「統合失調症」著者で京都大学(精神医学)の村井俊哉教授は「見る人によって受けとめるメッセージがまったく違ってきそうな映画です。見ている側の心が試されるかも。」とコメントを寄せている。

作品全体が放つ疲労感を覚える空気、悲惨さはトラウマ級

自分の頭に受信機、指には送信機が埋め込まれていると信じているピーター。彼は施設を出所した後、里子に出された娘を探すため故郷に戻る。しかし図らずも幼児殺人容疑で刑事に追われ、その世界は混迷を極めていく……。

世の中は静かであっても、常に頭の中のノイズに悩まされる男。ただ娘に会いたいだけなのに、周りは彼の行動を理解できない。狂っているのはこの男なのか。それともこの世の中なのか。主人公の行動は、ときに目を覆いたくなるほど、見る者に計り知れない痛みや切なさ、やりきれなさを与え、一生脳裏にこびりつき、忘れられない衝撃を与える。心をヤスリで削られていくかのような体感を遺す。

『クリーン、シェーブン』は2021年8月27日より公開。

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